「舞わす」 〜 陶淵明「形天舞干戚」句の解 〜

 雪隠書目の一つ、松枝茂夫・和田武司訳注『陶淵明全集』(岩波文庫)もようやく下巻に進み、いよいよ私の大好きな「読山海経(山海経を読む)」にかかりました。これは初夏の風が爽やかに吹き抜ける一室で、神話伝説を盛った古代中国の地理書である「山海経」を繙(ひもと)いている陶淵明が、興のおもむくままに経中のエピソードに付した五言詩を13首集めたものです。この13首のうち最も知られているのが「精衛銜微木 将以填滄海(精衛(せいえい)微木(びぼく)を銜(ふく)み 将(まさ)に以て滄海を填(うず)めんとす)」で始まる第10首「其十」でしょう。
 ところでこれの次の節は「形天舞干戚 猛志固常在(形天(けいてん)干戚(かんせき)を舞わし 猛志(もうし)固(もと)より常に在り)」と続くのですが、この「舞」字に付けた「舞わし」という訓には実にゆかしいものがあります。この字は鈴木虎雄『陶淵明詩解』にも同じく「(干戚を)舞はす」(旧仮名遣い)と訓んであり、おそらく古くからの訓なのでしょう。ただし松枝・和田がこの句の解を「形天という獣は、盾と斧をふりまわして」としているのに対し、鈴木が「又形天といふふしぎなものは(首が断ちきられても目と口があつて)盾や斧をとつて舞ををどるといふ」としているのはやや厳密を欠くようです。形天が自分で舞をおどるのなら「舞はす」ではなく「舞ふ」と訓むべきで、「干戚を舞はす」と訓んだ以上は松枝・和田の解のように「盾と斧をふりまわ」すと解するのが穏当でしょう。思うに鈴木は「舞わす / 舞はす」という語に馴染みがなかったのではないでしょうか。

(図は形天(胡文煥・画))
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