バッハのフルート・ソナタ ホ短調 BWV1034 第一楽章15小節目の改変
あれ、音が違う!?
 特にこれという原因も思い当たりませんが、ある日突然といった感じでバッハのホ短調のフルート・ソナタ BWV1034 が大好きになってしまいました。有田正広さんがトラヴェルソ(バロック時代のフルート)で吹いたCDを持っていますが、他にもいろんな演奏を聞いてみようと Naxos Music Library で古今のさまざまな録音を聞いているうちに、録音によってある音が違っていることに気づきました。
 その音とは第一楽章の15小節目のフルートの、十六分音符が16個あるうちの最初から7番目の音(以下この音符を Fl:15/n.7(フルートの15小節の7番目の音符( note )の意)と書くことにします)で、私が持っている新バッハ全集(ハンス=ペーター・シュミッツ Hans-Peter Schmitz 校訂 1963年)準拠の全音ベーレンライター原典版シリースの譜面ではこの音は a(ラ)なのですが、この音を半音高い ais(ラ#)で吹いている録音があるのです。たった半音の違いですが、この違いはいろいろな問題を提供していますので、以下検討していきます。
<譜例は新バッハ全集の15小節目と16小節目の前半。赤丸で囲った音はこの譜例では a(ラ)ですが、この音が半音高い ais(ラ#)になっていることがある。>

 私が最初にこの違いに気づいたのは、ジュリアス・ベイカーが吹いた1947年録音の演奏を聞いたときでした。さらに他の演奏を聞いてみると、アラン・マリオン、ペーター=ルーカス・グラーフ、ジャン=ピエール・ランパル、マクサンス・ラリュー、ヨハネス・ワルター、ポーラ・ロビソンなど、いずれも少年時代の私がまぶしく見上げた錚々たるビッグネームたちが、私の持っている新バッハ全集の音より半音高い ais(ラ#)で吹いていたのです。
 ところがおもしろいことに、一度は ais(ラ#)で吹いていたペーター=ルーカス・グラーフは、その後娘のピアノと入れた新しい録音では新バッハ全集の音 a(ラ)で吹いており、さらにランパルも後年の録音では a(ラ)で吹いています。つまり問題の音を ais(ラ#)で吹いていた奏者たちのうち、少なくともこの二人はその後 a(ラ)に乗り換えたというわけです。
 ais(ラ#)で吹いている演奏家の顔ぶれがいずれも比較的古い(失礼!)人であることと、グラーフおよびランパルの「乗り換え」から考えるに、どうもこの音は古い譜面の音らしい。そこでクラシック音楽の譜面のデータベース IMSLP でこの曲を探してみると、この推測は当たりでした。この ais(ラ#)は旧バッハ全集(パウル・ヴァルダーゼー Paul Graf Waldersee 校訂 1894年)の音だったのです。
<譜例は旧バッハ全集の15小節目と16小節目の前半。赤丸で囲った音は新バッハ全集の譜例では a(ラ)だったが、こちらでは臨時記号シャープがついて半音上がっている。>
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