なんかちゃんとしてない音楽関連情報
 先日投稿した「バッハ「フーガの技法」付属のコラール」をほぼ書き上げた頃になって気づいたことがあって、もっとも記事の内容にはあまり影響がないのであえて触れませんでしたが、新バッハ全集の「フーガの技法」 BWV1080 付属のコラールの注は、実はちょっと間違っているのです。
 問題のページは下左。音楽之友社版です。
 これの左肩の Erstausgabe: Choral, Wenn wir in höchsten Noethen sein という注は「初版では Choral, Wenn wir höchsten Noethen sein」と言っているわけですが、実際に初版を見るとこのコラールはそういうタイトルではありません。
 右が初版のコラールの最初のページですが、タイトルは Choral  Wenn wir in hoechsten Noethen となっています。新バッハ全集の注と見比べてみると höchsten ではなく hoechsten だし、最後の sein がありません。
 このコラールは今日では Wenn wir in höchsten Nöten sein と表記されますが、私の感じでは古くは ö より oe の方が好んで使われていたような印象がありますし、 t に続く発音されない h は今日の新しい正書法では削除されますが、昔は残されていました。日本では「ギョエテとは俺のことかとゲーテ言い」という川柳以外にもゴエテ、ゲョーテ、ゲォエテ、ゴアタ等々30種になんなんとする呼ばれ方をしたという文豪ゲーテも、その音に忠実に今日の正書法で表記すれば Göte となるのでしょうが、本名は Goethe です。つまり ö / oe や t / th は時代によってゆらぎや交替がある可能性が高い綴りなのだから(・・・って、ンなことニッポン人に言われなくたってドイツ人ならみんなわかってるんじゃないだろうか?)そこはどうなってるのかしっかり押さえてほしいと思うのですが、ドイツはカッセルに本拠を置くベーレンライター社刊行の新バッハ全集の注は、höchsten では今日の綴りと同じ ö を使いながら Nöten では ö ⇒ oe、t ⇒ th に置き換えるという一貫性のなさと、(文法的にはあった方が正しいが)初版にはない sein を今日のタイトルどおりに入れるというミスによって、結果として Erstausgabe の面影を伝え損なっています。ちょっと、この注を書いたあなた!ナマでも写真でも何でもいいんだけど、あなたほんとにこれ初版見て書いたの?と聞きたい気分。

 「音楽 / 楽譜で大事なのは音符なんだから、タイトルなんて多少違ってたってどうでもいいじゃないか」という考えもあるかも知れませんが、私はそんなことはないと思うのです。タイトルだって曲の一部であって作曲者は自分の作品の名前を間違って呼ばれたくはないでしょうし、そもそも同じ一つの譜面の中で文字情報はいい加減なのに音符だけは正確厳密に扱うなんていうことが本当にできるのでしょうか?たとえ文字情報であっても(文字情報であればなおさら?)こんな単純な不一致を見落として、あるいは放置して、出版にまで至ってしまう「節穴的な目」や「ツメの甘さ」のある譜面を、私はちょっと信用できないんですけどぉ〜。

 まあ信用できなくたって何だって、そういう譜面しかなければそれを使うしかないわけで、譜面そのものを疑ったらおちおち演奏もできないし(もっとも「原典版」は印刷された譜面をそのまんま演奏すればいいという種類の譜面ではなく、いい意味で「疑う」必要があるので、それについては機会を改めて書こうと思っています)ブログの記事だって書けなくなっちゃいますが、私が思うに他の分野はいざ知らずクラシック音楽の分野には、このテの文字情報、すなわち楽譜の中のオタマジャクシ以外の情報についてちゃんとしてないことがずいぶん多いような気がするのです。本ブログでも「「女学生」って誰?」や「音楽之友社版マーラー交響曲第1番スコアの誤訳」で曲名や注記の誤りについてぶーたれてますし、また「アバド / ベルリン・フィルのベートーヴェン交響曲全集DVD」、「ペール・ギュント組曲版スコアの「はしがき」〜第一組曲の1「朝の気分」」、「ペール・ギュント組曲版スコアの「はしがき」その2〜第一組曲の2, 3, 4」等でDVDのライナーノートやスコアの楽曲解説といった二次的な文字情報のハテナな内容を指摘させていただいてきておりますが、このテの話が今回また増えちゃいました。今月の14日に亡くなった俳優の阿藤快(あとう・かい)さんじゃないですが、「なんだかなぁ〜」ですよ・・・
| オーケストラ活動と音楽のこと | 21:35 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
バッハ「フーガの技法」付属のコラール
 バッハの「フーガの技法」BWV1080 は最後のフーガが中断したままの未完の作品ですが、バッハの死の翌年に出版された初版には、この未完のフーガの後に続けて「われ苦しみの極みにあるとき Wenn wir in höchsten Nöten sein」または「汝の玉座の前に今やわれは歩み出て Vor deinen Thron tret ich hiermit」という4声のオルガンコラール(ダブルネームになっているのは同じ旋律に異なった2種類の歌詞がついていることによる)が印刷されています。このコラールは「フーガの技法」とは全く別に書かれたもので、内容も「フーガの技法」とは関係がなく、しかもニ短調の「フーガの技法」に対してト長調=下属調の同主調というやや縁遠い、続けて演奏するには座りの悪い調性であるせいもあるのでしょう、「フーガの技法」の録音は世上に数多(あまた)あるもののこのコラールは収録されていないことが多く、私が6種類持っている「フーガの技法」の録音の中でもこのコラールを収録しているのは1種類しかありません。新バッハ全集の「フーガの技法」の序文でも「最後のコラールは元来《フーガの技法》に属する曲ではないけれども、初版にならってここでも付加しておいた。」(音楽之友社版による)と完全に継子(ままこ)扱いですし、初版の序文にも「最後の未完のフーガの穴埋めとしてここに加えた」という内容のことが書かれているそうで、私もこのコラールは単なる埋め草と思っていて、わざわざ聞いたことはありませんでした。

<左は新バッハ全集「フーガの技法」(音楽之友社版)に収載されているコラールの最初のページ。左肩の注のHandschrift は手稿譜、Erstausgabe は初版のこと。この注からこのコラールの手稿譜は口述として不完全な状態で現存していること(途中までで中断しているらしい、後述)、初版には「われ苦しみの極みにあるとき Wenn wir in höchsten Noethen sein」というタイトルで収録されていることがわかります(古いドイツ語らしく Nöten の綴りが今と違う)。その下に「Canto Fermo in Canto」とあるのは定旋律(コラール主題)がソプラノ声部に出てくることを示します。楽譜全体は初版の状態を示しており、楽譜の中にはさまれた Handschrft: [楽譜] は手稿譜が初版と異なっている箇所で手稿譜がどのようになっているかを示しています。>

 ところで最近また「フーガの技法」の録音を入手しました(好きやねぇ ^^;)。エマーソン弦楽四重奏団による録音(DG 474 495-2:右写真)で、本来弦楽四重奏用に書かれたわけではない「フーガの技法」をなるべく譜面に忠実に演奏するために、通常のヴィオラより低音側が拡張されたテノール・ヴィオラという楽器を使用するなど凝った取り組みをしていて、演奏もとてもよい。で、この録音には例のコラールも収録されているので、ついでに・・・といった感じで何気なく聞いてみました。
 
続きを読む >>
| オーケストラ活動と音楽のこと | 14:51 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
自分が出た演奏会:2015つくば市民文化祭 第38回音楽会
 これまでほとんど意識してなかったのですが、つくば市の文化祭の一環として行われる音楽会は今回で第38回だそうです。旧谷田部町・大穂町・豊里町・桜村が合併してつくば市ができたのが28年前の1987年なので1年1回の開催だとするとちょっと計算が合いませんが、その辺はまあ、何かいろいろあるのでしょう。ちなみに会場として使われているノバホールは32年前の1983年開業です。
 今回初めてこの音楽会に、しかもいつものように楽器ではなく、歌(独唱)で出演しました。

2015つくば市民文化祭 第38回音楽会
日時:2015年11月8日(日) 私の登場は14:54から15:06
場所:ノバホール 大ホール(茨城県つくば市)
曲目:カタリ・カタリ(薄情け)  Core 'grato
   彼女に告げて  Dicitencello vuie
   光さす窓辺  Fenesta che lucive
演奏:金田 誠(テノール)
   松本定芳(ピアノ)
   浜田敏雄(マンドリン)
続きを読む >>
| 自分が出演した演奏会 | 15:16 | comments(2) | trackbacks(0) | pookmark |

CALENDAR

S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930     
<< November 2015 >>

SELECTED ENTRIES

CATEGORIES

ARCHIVES

RECENT COMMENT

RECENT TRACKBACK

MOBILE

qrcode

LINKS

PROFILE

SEARCH