最近読んだ本:「柳田国男を読む」(赤坂憲雄 2013 筑摩書房 ちくま学芸文庫)
 本書の第一部「柳田国男の読み方」はもともと1994年にちくま新書の一冊として刊行された『柳田国男の読み方――もうひとつの民俗学は可能か』をそのまま採録したもので、そのあとがきも再録されており、そこに次のような一節があります。

 むしろ、柳田との出会いといえるものがわたしにあるとしたら、それは筑摩書房版の『定本柳田國男集』全三十六巻を手に入れたときのことだ。二十代も終わりに近い、ある夏の午後であった。高校生の頃から、暇さえあれば通った古本屋さんが国立にあった。国立スカラ座という映画館の近くの谷川(やがわ)書店である。スカラ座は跡形もなく消えたが、谷川書店はいまも旭通りに健在だ。『定本柳田國男集』はそこで買った。たしか四万五千円の値段だった。初版の、固い箱入りのもので、読まれた形跡はまるでなかった。格安だったが、当時のわたしにとってはかなりの勇気がいる買い物だった。段ボール箱に詰め、自転車の荷台にくくりつけて、国分寺のアパートまで運んだ。荷台から伝わってくるずっしりとした重量感が、心地よかった。

 赤坂氏は1953年生まれだから、「二十代も終わりに近い」というのは1980年前後になりますね。その頃私はもっぱら大学の図書館でこの『定本柳田國男集』を読んでいましたが、それと時を同じくして赤坂氏がその『定本柳田國男集』を、私が卒業した高校のある国立で買っていたことを知って、不思議な感じがしました。
 ちなみに国立の谷川書店は、私は行ったことないのですが今でも健在のようです。機会があったら行ってみようかな。

 私は大学で日本民俗学を専攻したので、『定本柳田國男集』にはよくお世話になりました。しかし一人暮らしの学生の身ではハードカバー全36巻を買う気もお金も置く場所もなく、それ以外に欲しい本もあったので、「あれは図書館で読む」と決め、それでも総索引と書誌等を収めた別巻第5と、『雪国の春』その他の紀行文を収めた第2巻だけは自分で買って手元に置き、おおいに活用しまた愛読しました。
 その後、1989年から1991年にかけてちくま文庫で『柳田國男全集』全32巻が出ました。このちくま文庫版全集は『定本柳田國男集』を底本に、『定本』に採られなかった著作も収録した「全集」で、これ幸いと出るはしから全巻購入しました。ですがこの頃には私は既に大学を卒業して経理屋さんになっていて、学生時代のように柳田國男を読む機会も必要もなくなっていたので、さすがに「読まれた形跡はまるでな」いとまではいかなくても、まだ全く目を通していない巻が半分以上あります。たとえ今では無関係でも、かつては日本民俗学を専攻した者としては、できれば全巻一通り目を通しておきたいんだけどねぇ…と、気にはなっておりました。つべこべ言わずに1から始めて32まで順番に読んじゃえ!と思わないでもないのですが、もっと効率的というか、楽に読める方法があるんじゃないだろうか…?
 そんなある日、書店の店頭で本書を見かけました。そうだ、ここは一つプロのお導きに頼っちゃえ!というわけで、さっそく購入。

柳田国男を読むひさしぶりに付箋入れながら一生懸命読んじゃいました。
 なお本文中で柳田「國男」と「国男」の両方の表記をしていますが、基本的に本人の名前には「國」を、また『定本柳田國男集』とちくま文庫版『柳田國男全集』についてはそれぞれのタイトルどおりに「國」を用い、一方『柳田国男を読む』のタイトルおよび本文には(編集方針によるものか)「国」が使われているので、本書に言及する場合はその表記を尊重して「国」を使っています。

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| 本のこと | 10:03 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
最近読んだ本:「ビジネスマンの基礎知識としての損得計算入門 利益を最大化する意思決定のルール」(藤田精一著 2013 日経BP社)
 私はこれまでずっと会社の経理・総務関係をやってきましたが、経理屋さんが必ずしも損得勘定に長けているとは限りません。法律や一般に公正妥当と認められたルールに従って当期利益(損失)や課税所得を計算するのが企業会計なので、つまり対象となる会計年度が終わってからその期の期間損益を算出するのですから、「この設備投資は将来どれくらいでペイするか」とか「これだけの広告費をかけてキャンペーンを打ったらどれだけ利益が出るか」とかいった将来の予測に関することは企業会計の扱う範囲ではありません。年金会計や税効果会計、引当金など将来の予測にかかる要素も多少はありますが、それとて個々の取引が儲かるか儲からないかといった話とは無関係です。
 そんなわけで、たまたま新聞広告で見かけた本書には大いに興味をそそられました。

損得計算入門 買って表紙をめくったら、いきなりカバーの見返しにかかる部分に

  前向きな選択をするためには、
  会計思考を捨てましょう。
  義理人情は忘れましょう。
  埋没費用にけりをつけましょう。

とあって、前述のとおり会計畑が長い私は思わず頭をかきました(確かに会計思考は終わった年度を扱うわけだから、後ろ向きなのかぁ…)が、簡明な原則によって正しい答えが一つだけ求まる損得計算は実に痛快で、計算例を多用した筆者の説明もわかりやすく、半日で読了してしまいました。
 本書の構成は次のとおり。

はじめに
Chapter 1 損得学の基本的な考え方
 Lesson 01 損か、得か、正しく判断する
 Lesson 02 会計思考との違い
 Lesson 03 原則を守らないと損しても気づかない
 Lesson 04 意思決定の4つのステップ

Chapter 2 「割勘思考」は忘れましょう
 Lesson 01 「公平な分配」はできるのか?
 Lesson 02 「ウィン・ウィン」の関係は成立する?

Chapter 3 損得計算の実践Q&A
 Lesson 01 どっちがどれだけ得なのか?
 Lesson 02 「忙しい時期」と「暇な時期」で正解は違う
 Lesson 03 需要と供給と損得の関係
 Lesson 04 受注の価格交渉
 Lesson 05 優劣分岐点分析
 演習問題

Chapter 4 埋没費用と機会費用
 Lesson 01 埋没費用
 Lesson 02 機会費用

Chapter 5 案の相互関係
 Lesson 01 排反案と独立案
 Lesson 02 「効率」という尺度

あとがき
参考文献
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| 本のこと | 19:58 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
Der Einsame im Herbst 秋日独思
 タイトルはマーラーの交響曲「大地の歌 Das Lied von der Erde」の第二楽章からとっておりますが、内容はそれとは全然関係ない下世話なものでありますので、悪しからずご容赦ください…

 SNS(Facebookとmixi)では既に公にしていますが、勤めていた会社が去る8月16日に解散しました。以前から売り上げが上がらず、このままではいずれ…と感じてはいましたが、8月15日までの夏休みが明けた16日の朝、「さあ出勤」と思っていたところへ自宅に電話があり、午後3時に本社へ全員集合とのこと。これはひょっとすると…と思いましたが、まさかその日に解散を言い渡されるとは思いませんでした。

 会社が解散したからといって、経理・事務担当の私の場合は即日失業ということにはならず、まだ会社清算のための仕事を続けています。清算業務といっても法律的なことは弁護士に委託しているので、仕事としては関係先への連絡と問い合わせ対応、退職者への対応、諸々の支払、不要物の処分等といったところ。
 とは言え、会社が解散したということはもう新しい仕事はないわけで、捨てるもの捨てて片づけるもの片づけちまえば「ハイそれまでヨ」でめでたく(?)解雇、失業でございます。どうなんだろ、次の給与計算の締めは10月10日だから、そこら辺で半端なくすっきりと、かな?それとも「給与の締めは関係なく一段落したらさっさと辞めてね」ということなんだろうか…いずれ長くはないんだがいつ明けるかわからない無期限状態、宙ぶらりんな感じです。

 いずれにしてももう会社に金は入ってこないのだし、幸い先週の台風が通過してからは昼間もそこそこ涼しくなったので、会社に来ても空調は入れず蛍光灯もつけずに窓を開け放します。節約にもなり明るい光と気持ちのよい風が入ってきて一石二鳥。まわりはまるで田舎なので人も車もめったに通らず、窓の外から聞こえてくるのは秋の虫の声と遠くで鳴く夏の名残のツクツクボウシ、モズの高鳴きと時々飛び過ぎる鳥たちの鳴き声くらいで実に静かです。
 思えば秋はいつも素面で明るく静かで、豊かな実りはあるものの、次第に迫る枯死とそれに続く長い長い冬の兆しをどこか頽(ものう)く見つめる季節でした。だから物事が終わるのにはふさわしいと言えるでしょう、喧騒と饗宴の夏が過ぎ野分も過ぎて、もう先には白く乾いた枯れ野しかないのだと、もう後戻りはないのだと、静かにきっぱりと言い渡されるこの時期が。

 私はこれまでに、会社の吸収合併など自分が意図したのでないものも含めると都合6回ほど転職を繰り返してきましたが、その間無職の状態であったのはたぶん休日の関係でやむを得ずはさまった一日だけで、必ず次の仕事を見つけてから前の会社を辞めてきました。根が小心者だからね〜(笑)。が、今度ばかりはいつ解雇されるのか今のところ見当がつかないし、次の仕事を探すのはちゃんと(?)解雇されてからにして、サラリーマン人生初の空白期間をおいてみようと思います。昔は「履歴書に空白があると次の就職に不利だ」などとも言われましたが、今度の場合はそれ以前に年齢が年齢だしねぇ…

 先週は屋外にあった飲み物の自動販売機と、工場用の酸素と二酸化炭素のガスボンベが撤去されました。だんだん身軽くなります。

| 暮らしの中から | 10:55 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
自分が出た演奏会:東京プロムナード・フィルハーモニカー第9回定期演奏会
 京都府や福井県など西日本を中心に大きな被害をもたらした台風18号が関東地方に接近しつつあった9月16日(月・祝)、東京プロムナード・フィルハーモニカー第9回定期演奏会が行われました。朝から首都圏のJRや私鉄の運休が相次ぎ、お客様がどれくらいいらっしゃるか心配しましたが、お昼頃には交通網も復旧し、400人ほどのお客様がお見えになりました。ありがたいことです。

プログラム表紙東京プロムナード・フィルハーモニカー 第9回定期演奏会
日時:2013年9月16日(月・祝) 14時開演
場所:杉並公会堂 大ホール(東京都杉並区)
曲目:歌劇「魔笛」序曲(モーツァルト)
   ティンパニ協奏曲(テーリヒェン)
   交響曲第9番「新世界より」(ドヴォルザーク)
    アンコール曲
   バレエ「ガイーヌ」より「剣の舞」(ハチャトゥリアン)
   ラデツキー行進曲(ヨハン・シュトラウスI世)
独奏:永野 哲(ながの・てつ)
指揮:佐藤 迪(さとう・すすむ)
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| 自分が出演した演奏会 | 09:12 | comments(2) | trackbacks(0) | pookmark |
食に関する本:「子どもの味覚を育てる ピュイゼ・メソッドのすべて」

子どもの味覚を育てる この本、今から4年ほど前の記事の終わりの方に参考図書として一度紹介してますが、そのときは未読でした。それから4年経って読了しましたが、勿論4年もかけないと読めない難しい本ではなく、その間ずっと積ん読になっていただけです(笑)。

 本書はジャック・ピュイゼ氏が12年間の試行錯誤を重ねて開発した、1時間半の授業10回で構成される「味覚の目覚め」の授業(対象としては小学校5年生前後を想定)を中心に書かれています。
 ところで本書を読み始めてすぐに「あ、そう言えば」と目からうろこが落ちるのは、「味覚」とはただ単に舌の表面の味蕾(みらい)で感受される感覚だけを指すのではなく、眼(視覚)耳(聴覚)鼻(嗅覚)舌(狭義の味覚)身(触角)で感じられる五感すべてが複合した感覚であるということです。そのことは10回コースの各回のタイトルにも表れています。

第1回 五感について
第2回 味覚と4つの基本味
第3回 一食のメニューを構築する
第4回 嗅覚
第5回 視覚
第6回 触覚
第7回 味覚を妨害するもの
第8回 私たちの地方
第9回 まとめ
第10回 息抜き

 五感といいながら聴覚の回がありませんが、独立した回として立てられていないだけで、特に第7回「味覚を妨害するもの」で口の中でさまざまな種類の食べ物を噛むときの音の違い、耳をふさいだりイヤホンをつけて食べ物を噛んだ時の音の変化、騒音による味の感じ方の変化が簡単な実験付きで扱われています。

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| 食に関する本 | 19:12 | comments(0) | - | pookmark |
自分が出た演奏会:土浦音楽院楽友会第4回サマーコンサート
 8月24日にペトリカラー35を携えて土浦の街を歩いていたのには理由があって、この日の午後に亀城プラザ文化ホールで行われた土浦音楽院楽友会第4回サマーコンサートで、弦楽合奏の指揮を仰せつかっていたのです。

楽友会サマーコンサート 土浦音楽院は土浦交響楽団の創始者である桑田晶先生が土浦で始められたヴァイオリン教室で、2009年に50周年を迎え、その間に音大進学者は勿論のこと、NHKの朝ドラ「てっぱん」の音楽等を担当しているマルチミュージシャンの啼鵬(ていほう)氏を初めとするプロの音楽家も輩出しています。
 この50周年を機に門下生のOBを中心とした楽友会の演奏会が始まり、今年は第4回になりました。楽友会に先立つ青い芽の会・土浦音楽院時代の発表会・演奏会から通算すると第54回ということになります。桑田先生は7月頃やや体調を崩していらっしゃいましたが、コンサート当日は開会のご挨拶からその後の懇親会にまでご出席され、お元気な姿を見せてくださいました。
 私は桑田先生の門下生ではないものの、先生が創設された土浦交響楽団つながりで、トリの弦楽合奏の指揮を仰せつかりました。曲目は「ヴェネツィアのディレッタント」ことアルビノーニの作品から
・5声のソナタ ホ短調 Op.5の9
・協奏曲 ニ長調 Op.7の1
の2曲です。
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| 自分が出演した演奏会 | 20:20 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
ペトリカラー35で撮った土浦
 今年初めに入手した小さくてよく写る距離目測・全手動フィルム用コンパクトカメラのペトリカラー35を携えて、8月24日の土曜日に土浦の街を歩きました。例によってシャッターを切る楽しさにかまけてつまらない写真を量産してしまいましたが、そんな中から押しつけがましくいくつかご紹介します。

カメラ:ペトリカラー35 レンズ:C.C Petri 40mmF2.8
フィルム:Kodak GOLD200(ネガカラー ISO200)

待っている女 女は待っています。看板が真白な店の閉じたシャッターの前で。隣の店の幟は「おまたせしません」なんて言ってますが、女はもうずいぶん待っています。視線を低く落としてたおやかに、しかし梃子でも動くまい風情で、女は待っています。

「ほたて」と櫻橋 土浦駅から亀城(きじょう)公園に至る通称「亀城通り」と旧水戸街道との交差点「中央一丁目」に建つ天ぷら屋「ほたて」の店の前にある「櫻橋」の親柱。隣には「土浦市道路元標」があります。今の亀城通りにはその昔、土浦城から川口町を通って霞ヶ浦へ注ぐ川(川口川)が流れており、旧水戸街道はこの川を「櫻橋」で渡っていたのです。
 ちなみに店名の「ほたて」は天ぷらのネタのホタテ(帆立貝)ではなく、保立(ほたて)さんがやってるお店です。念のため。
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| 写真とカメラ | 19:10 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |

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