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雪が降った翌朝がもし晴れたら、その日は近くの山を歩こう。足元はしっかり固めて、手袋に耳当て、毛糸の帽子。よく晴れて微風なら歩いているうちに暖まるから、厚手の防寒着は着て行かない。
山に入ると、降雪で清められた空気は深々とあたりを満たし、聞こえるのは雪を踏む自分の足音と息づかい、ときどき啼く鳥の声、バサリ、ドサドサッと雪の落ちる音ばかり。谷あいの道は青っぽく沈み、足元が滑って肝を冷やす瞬間もなくはない。やがて日当たりのよい稜線に出ると、陽射しは明るく暖かく、青く澄んだ空には氷の粒の雲が浮かび、雪の飛沫もキラキラと輝きながら空中に漂う。谷をはさんで向かい合った稜線の雪が、陽射しを浴びてなんだかふんわりと暖かそうに見える。葉をすっかり落として明るくなった頭上の枝づたいに、小さく軽い毛玉のようなカラ類の集団がやって来て、てんでん勝手なおしゃべりとせわしない動きであたりの空気をかき乱し、やがてまた去ってゆく。
このままどこまでも歩いて行きたいけれど、昼を過ぎれば雪はゆるんで泥濘となり足元を悩ませる。そうならないうちに早めに稜線を離れて、ふたたび青く冷たく沈み込む谷あいへ降りてゆこう。そこでも道端の小さい流れの氷が不思議な造形を見せてくれたり、うっかり踏み散らかした霜柱がガラスのようにきらめいたり、朝には気づかなかったものをまだいろいろ見出すことができるだろう。そうして幾分疲れを感じながら麓の町まで下りて来れば、乾いた道と夕陽と久しぶりの人臭さが、思いがけない懐かしさで私を包んでくれるだろう。
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