さあ、「ピアノで弾くバロック」のコーナーです!
前回のクープランに続いて、今回はアンジェラ・ヒューイットの弾くラモーを取り上げます。今回はタローさんとの聞き比べはありません。
白状しますが、私はフランスのバロック音楽についてはあまり知らない、というか、取り組みが怠惰だったのですなぁ・・・フランスのバロック音楽の作曲家としてはリュリ、ラモー、クープランあたりが真っ先に思い浮かびますが、そもそもこのお三方がそれぞれいつ頃活躍されたのか、先後関係がわかってません。というわけで、この機会に整理してみましょう。
ジャン=バティスト・リュリ 1632-1687(もとイタリア人、1661年に帰化)
フランソワ・クープラン 1668-1733(大クープラン)
ジャン=フィリップ・ラモー 1683-1764
なるほどー、ラモーの方がクープランより後なんだ・・・いや、私は漠然とクープランの方が後かなぁと思っていたのです。というのは、前回のヒューイットやタローのアルバムでもそうなのですが、クープランの曲は和音が充実していて、時に「えッこの時代にそれ、あり?」みたいな四音和音、五音和音を使っているのに対して、ラモーの曲はそれほど凝った和音は使ってなくて、縦の和声より二声なり三声なりの動きがよく見える曲が多い印象があったからなのですね。でも実際にはラモーの方が15年ほど後に生まれていますから、クープランの方が後のような気がしたのは、時代が進むほど和音が複雑になるという私の単純な思い込みのせいだったようです。
さて、ヒューイットのラモーです。これもクープラン同様すてきです。ピアノで弾いていながらクラヴサン曲としてのわきまえがあると言いますか、要はクープランの時と基本的に同じアプローチです。前述のとおりラモーの曲はクープランより風通しのいい作りの音楽なので、とりわけ疲れてる時や元気のない時はクープランよりも耳になじみやすいです。BGM風にぼんやり聞き流しても気持ちいいですし(う、うわぁそんな贅沢な!)、気を入れて聞けばおもしろいことがいっぱい起きています。
曲目のことを言うと、私が大好きな「ため息 Les Soupirs」という曲が含まれていないのは残念です。しかし私の敬愛する指揮者オットー・クレンペラーがオーケストラ用に編曲しているガヴォットと6つのドゥブルの原曲が含まれていて、クレンペラーが原曲にかなり忠実にオーケストラに置き換えていることがわかったのは収穫でした。
クレンペラーはバッハのマタイ受難曲、ロ短調ミサ曲、ブランデンブルク協奏曲と管弦楽組曲の全曲、ヘンデルの「メサイア」や合奏協奏曲などバロック音楽の名曲の録音を残しており、しかもそれは彼が功成り名遂げてからの余暇のすさびではなく、1946年には高音トランペットの代りにソプラノサックス(!)を使ってまでブランデンブルク協奏曲第2番を録音してますから、早い時期からバロック音楽の紹介に努めていたのです。しかしこの話は長くなるので、またいずれ。
<写真は私が持っているラモーのLPとヒューイット盤。LPはブリジット・オドブール Brigitte Haudebourg というフランスの女流奏者が弾いた1枚ものの選集で、使用楽器はクロード・メルシエ=イティエが復元したジャン=アンリ・エムシュ Jean-Henri Hemsch が1751年に製作したもの。日本コロムビア OW-7865-AR 原盤はARION。ジャケットは小さくて狭っ苦しいCDのそれとは比べ物にならない風格の漂うもので、ARION原盤のオリジナルのものと思いたいが、残念なことに左下のクラブサン製作者アンリ・エムシュのアンリの綴りがぁぁぁ・・・フランスのレーベルならソコは間違えないでしょ、たぶん。>
最後にヒューイットの録音に使われている楽器について。クープランではスタインウェイでしたが、このラモーではファツィオリというイタリアのメーカーの楽器が使われています。私みたいに車の中で聞いたり iPod とイヤホンで聞いたりしていると、「そう言われるとなんか違うような気がする」程度でその違いがよくわかりませんが、このメーカーのピアノはとても音が美しいらしい。確かに私のような聞き方でも軽やかで繊細で美しい音です。きちんとした再生装置で聞かれる方はその辺もお楽しみに。
次回はヒューイットの弾くヘンデルです。