来月26日に土浦交響楽団の定期演奏会でワーグナーの「ニーベルングの指輪」から3曲を演奏するのですが、「指輪」といえばライトモチーフ(示導動機)。ライトモチーフとは1小節から3小節程度の短い、しかし特徴的な音型で、基本的には歌でなくオーケストラで演奏され、それが割り当てられた「
人物」「
物(指輪とか)」「
できごと(神々の没落とか)」「
感情(怒りとか)」等を表します。たとえば舞台上にウォータンがいるときに「ウォータンのフラストレーション」というモチーフが演奏されると、たとえウォータンが
「わしはフラストレーションがたまってるぞー!」と歌っていなくても、彼がフラストレーションを抱えていることが暗示される、という具合です。歌や演技では示されていないことを象徴的・暗示的に表現するのがこのライトモチーフなので、「指輪」をより深く楽しむにはライトモチーフの理解が不可欠であると言われているし、CDやDVDを買うと必ず「ライトモチーフ一覧表」が付いているのです。
<「指輪」ライトモチーフ集 "An Introduction to Der Ring des Nieblungen" ( DECCA 443 581-2 ) 2枚組で193の譜例を140分かけて解説する。>
しかしライトモチーフをただ一覧表にまとめてあるだけでは、実際にはあまり役に立たないのです。まず楽譜が読めないとダメだし、たとえ読めても読むのがめんどくさいし、たとえ読んでも音として頭に残りづらい。
しかもライトモチーフそのものが(数える人によって違いますが)数十とか百いくつとかある上に、一口にライトモチーフと言っても幕や楽劇をまたいで繰り返し登場するものから数回出て終わりというものまで、その重要性に濃淡があるのに、出てくる順にずらずらっと並べただけの一覧表ではその辺もわからない。さらに、実際に演奏の中で出てくるときにはオーケストラの多種多様な音で出てくるわけだし、調やテンポが変わったり他のライトモチーフと組み合わさって出てきたりするので、聞いてるうちにもうどうでもよくなっちゃうんですね。
それで思い出すのが「赤尾の豆単」。旺文社から出ていた(今も出ている?)英単語集で、数千語の英単語がアルファベット順に並んでいて、例文もない。昔の高校生はこれを丸ごと頭から覚えたらしい。このアルファベット順というコンセプトをひっくり返した画期的な英単語集が「出る単」こと青春出版社の「試験に出る英単語」で、収録対象を試験に頻出する英単語だけに絞り、それらをアルファベット順ではなく重要度順に並べたもので、私らが受験生の頃はこれがバイブルでした。その後の英単語集は、単語単体ではなく文章やフレーズで覚える方向へとさらにパラダイムシフトしたらしいが、その辺になるとおぢさんはよくわからないよ(汗)。
要するに、出てくる順にライトモチーフをずらずらっと並べただけの「ライトモチーフ一覧表」は、コンセプトとしては「赤尾の豆単」なわけで、今の世の中にはちょっとそぐわないんじゃないかと。