ご存知の方も多いことでしょう、音楽之友社から新バッハ全集、ランドン校訂のハイドン交響曲全集、新モーツァルト全集、ノヴァーク版ブルックナー全集など、定評のある原典版・批判版によるミニアチュア・スコア(ポケットスコア)が出版されています。同一内容のテクストが輸入版より安く、しかも序文などに日本語訳をつけて出版されていて、日頃その恩恵に浴している私としては、これはもう勲章上げたいくらいの偉業だと思って感謝しております。
ところがそんな中で、マーラーの交響曲第1番(改訂版:1967年 Universal Edition のリプリント OGT 1446)のスコアは問題あり。マーラーはしばしば「指揮者への注」等と称してドイツ語の文章をスコアに書き込んでいます。音楽之友社版はそのいくつかに日本語訳をつけてくれていて、そのこと自体は大変ありがたいのですが、残念なことに誤訳があるのです。第1番はマーラーの交響曲の中でおそらく最も演奏頻度が高い曲である上に、私が確認したところでは2006年発行の第33刷でも訂正されていません。昭和52(1977)年の初刷以来30年も経つのに、これはちょっとまずいでしょ(^^;)
<手元のスコアは昭和55年の第3刷で当時900円。消費税なんてものはまだこの世になかったのだ。>
誤訳はスコアの140ページ、第四楽章の414小節以後に関する指揮者への注です。ドイツ語の原文と問題の訳文は次のとおり。
原文;
Ammerkung für den Dirigenten: Die Betonungen fp in den Violen, Celli u. Bässen sowie auch in den andern Instrumenten werden entsprechend dem allgemeinen D i m i n u e n d o immer schwächer und schwächer ausgeführt.
この注に対する音楽之友社版の訳(以下「音友訳」):
指揮者への注意;ヴィオラ、チェロ、コントラバスならびにその他の楽器の fp という強弱記号は、普通のディミヌエンドと同じく、段段に弱くする意味。