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最近読んだ本(短評):『精読 アレント『全体主義の起源』』(牧野雅彦 2015 講談社新書メチエ 604)

 『全体主義の起源 The Origin of Totalitarianism』(1951/1955/1958;以下「原著」という)はハンナ・アーレントの主著の一つであり、私としてもぜひ読んでおきたいものではあるが、邦訳本はハードカバーで三分冊という大部なものであり、安価な原著の Kndle 版にかじりついてはみたものの私の英語力では到底歯が立たず、取り組みかねていた。その点で原著の構成や内容を概ね知ることのできる本書の出版は大変ありがたかった。

 

 本書は原著の構成に従って、全体主義の要素となった「反ユダヤ主義」と「帝国主義」を順次検討し、それらが全体主義に結果したというクロノロジカルな構成をとっている。これはアーレントの問題意識が「(全体主義の)諸要素が急に結晶した出来事」(本書「注」p.10)にあったからで、つまりアーレントは諸要素が出そろえば必然的・自動的に全体主義になるわけではなく、何かの出来事をきっかけにしてそれら諸要素が一斉に結晶して全体主義になる、と考えていたようである。私は今回の読みではこの結晶過程をとらえ損なっている。要再読。

 

 原著で扱われている「全体主義」はヒトラーのナチス・ドイツとスターリンのソヴィエト・ロシアである。ところで本書で「そもそも日本では―シベリアに抑留された兵士など一部の人々を例外とすれば―「全体主義」と正面から向き合ったことがなかった」(p.267)と指摘されているとおり、私自身にも全体主義に対するイメージがほとんどなかった。しかしアーレント自身やアーレントが読者として想定していたであろう1950年代の欧米人にとってヒトラーやスターリンの全体主義は決して他人事ではなく、自分たちが身をもって対決した、あるいは今対決している現実であったわけで、原著を読もうとする私を含む日本の読者はこの点でハンデを負っていると言えよう。
 このハンデを軽減する手段として、カール・ヤスパースが原著ドイツ語版(1955)の序言で推奨したという、第一部「反ユダヤ主義」と第二部「帝国主義」をとばして全体主義を扱った第三部「全体主義」を先に読むという読み方も「あり」かと思われる。今回の読みでも、最も興味深く圧倒的な印象を与えられたのは原著の第三部「全体主義」及び初版の結語を扱った第四章「全体主義の成立」と第五章「イデオロギーとテロル」であった。

 

 今回の読みは原著及び本書の内容を的確にとらえきれず、いささか皮相なものにとどまったため、いずれにしても要再読なのだが、それでも本書で示された全体主義の諸相やその分析からは、我々の現実生活の中にある様々な問題を考える上での示唆を得られたように思う。それは現実の問題を打ち当てて火花を出す火打ち石のようなものか。その火花を何に移しどんな炎に育てるのかは我々自身の問題となる。

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