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最近読んだ本:『近代日本思想案内』(鹿野政直 1999 岩波文庫別冊14)
 岩波文庫別冊ということで、読む前には「どうせ岩波文庫からの引用をつなぎ合わせた販促モノであろうよ」と正直ナメていましたが、実際に読んてみるとどうしてどうしてそんなものではありませんでした。「幕末維新から戦後まで、近代日本百年の間に日本人によって生みだされた思想とそれを担った思想家について簡潔に記した近代日本思想入門。」というカバー見返しの惹句どおりの内容で、ほぼ時間軸に沿いながら、目次からわかるとおり主な思想を網羅的に扱い、それぞれの代表的な著作を引用を交えて紹介しています。著作や引用は岩波文庫・岩波出版物に限らず公平に(笑)選ばれていて、ただし岩波文庫に収められている書目には「*」が付けられています。

<カバーカットは福沢諭吉「世界国尽」からのもの。真ん中にユーラシア大陸がどんと置かれ、日本は右隅に追いやられています。「イヤ世界は広いナァ」と思わせる絵柄です。しかしよく見ると、沖縄や佐渡は縮尺の関係でまあ我慢するとしても、四国が描かれてない!まあ台湾もないから、いいか・・・って、そういう問題かい!世界に目を奪われる前に、まず日本のことをちゃんとしたいです。>
 以下、目次を転載します。

はじめに―思想と向きあう
「近代日本思想」という主題/思想という枠組/枠組を広げる/思想の歴史を見る意味/構成と姿勢

1   幕末という時代
ペリー来航とマインドの騒動/「西洋」の発見/『西洋事情』/岩倉使節団/中国観の転換/「日本」の発見/幕藩制を超える視野/近代日本思想の土壌

2   啓蒙思想
国家の建設と「民心の改革」/明六社/「西洋」の導入/気風の改造/明六社の群像/福沢諭吉と「一身の独立」/文明史論/翻訳時代へ

3   自由と平等
自由民権運動/植木枝盛と人民主権論/中江兆民と「理」の追求/「民権是れ至理也」/自由民権思想における「西洋」と「東洋」/自由民権思想と天皇制/「自由」の受けつがれ方/「平等」の受けつがれ方

4   欧化と国粋
国家構想から文化構想へ/平民主義と国粋主義/「明治ノ青年」と平民的欧化主義/「国粋」と世界への貢献/新しい文化意識/「アジアは一つ」

5   信仰の革新
近代化と信仰の革新/創唱宗教の簇生/天理教と大本教/キリスト教の移植/内村鑑三/仏教の自己改革/『歎異抄』の復活

6   国体論
水戸学と国体論の構築/経典としての帝国憲法と教育勅語/挑戦者たち/農本主義/「昭和」と国体

7   生存権・人権
基本的人権と近代日本/『日本之下層社会』と『女工哀史』/岡田嶺雲と「ヒューマニチー」/廃娼の思想/田中正造/全国水平社

8   民本主義と教養主義
国家と思想の新段階/吉野作造と民本主義/民本主義の諸相/長谷川如是閑の文明批評/「民衆」の浮上/自由教育運動/植民地主義批判と「改造」の気運/人生論と哲学ブーム/文化史と文化論/学生と教養/自由主義

9   民俗思想
フォークロアの誕生/柳田国男と民俗学/南方熊楠と禁忌への挑戦/「東国の学風」/伊波普猷と沖縄学/アイヌ文化を謳いあげた人びと/柳宗悦と「民芸」/今和次郎の民家探求

10  科学思想
丘浅次郎と『進化論講話』/山本宣治の性科学/小倉金之助と数学の社会性/社会医学の人びと/科学論の担い手と時局

11  社会主義
近代日本と社会主義/初期社会主義/幸徳秋水の帝国主義批判/平民社と非戦論/アナキズム/マルクス主義/三木清の人間学/講座派の人びと/窮乏の農村/戸坂潤と日本イデオロギー批判/中野重治とマルクス主義の視界/マルクス主義と転向

12  フェミニズム
貞女の風土/文学とフェミニズム/与謝野晶子と生命の讃歌/平塚らいてうと青鞜社/高群逸枝と新女性主義/生の軌跡と論争

13  反戦論・平和論
『日本平和論大系』/石橋湛山と「満蒙」問題/矢内原忠雄と「国家の理想」/桐生悠々と『他山の石』/正木ひろしと『近きより』/手と足を…

14  日記・自伝・随想・書簡
論説と感想録/日記の習性/日記に見る八月一五日の表情/自画像としての自伝/『福翁自伝』と河上肇『自叙伝』/随想という形式/寺田寅彦と中谷宇吉郎/断想やアフォリズム/書簡の思想表現

むすび―戦中から戦後へ
降伏と言論の氾濫/丸山眞男と「超国家主義の論理と心理」/竹内好と「中国の近代と日本の近代」/伊丹万作と「戦争責任者の問題」/花田清輝と「一筆平天下」の気概/言葉を取り戻す/文化を立ち上げる

付編 言論法規
言論法規の起源/言論弾圧史の諸研究/出版法と新聞紙法/総力戦体制下の言論統制/検閲と伏字/編集者美作太郎の場合/占領と検閲

索引


 本書は、いわば幕末以降に関する思想のそれぞれを定位する座標系となるもので、私はこれまで興味のおもむくままに、水戸学とか丸山眞男とかそれぞれ個別に接してきましたが、この座標系を得ることによってそれぞれの相互の関係をつけたり、前後左右に広げたりすることができるようになるわけです。
 本書にはそうした座標系としての使い方以外に、自分がこれまで接したことがない思想のサワリに手軽に触れられるというメリットもあり、たとえば私は「数学の社会性」という項目に惹かれました。実際のところそれは数学自体の問題ではないのですが、その目のつけどころに大変興味をそそられました。付箋もいっぱい入ったし、読んでみたいと思う本も増えました。
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