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最近読んだ本:『死角 巨大事故の現場』(柳田邦男 昭和60 新潮社 / 昭和63 新潮文庫)
 柳田邦男氏の多くの著作の中で、私はこれまで主に『マッハの恐怖』正・続『航空事故』『恐怖の2時間18分』など航空事故関係のものを読んできました。本書は昭和53(1978)年から昭和60(1985)年にかけて、防災専門誌『セキュリティ』を中心に『土木学会誌』「建設業界』といった専門誌から一般週刊誌・新聞等に発表された論説をもとに編まれたもので、取り上げられた事例はやはり航空事故が多いのですが、そればかりではなく鉄道事故、原発事故、火災、商品事故、風水害など多岐にわたっています。しかし「一つ一つの事故・災害の形態は違っていても、事故原因を構成する諸要因とその連鎖関係という本質的な部分においては、普遍的とさえいえる共通項がある」(「あとがき」p.327)という指摘どおり、ほとんどの事故や災害においてはそれがたった一つの原因で起きることはまれで、多くの場合は複数の諸要因の連鎖が最終的に事故や災害に至るのであって、したがってこれらの連鎖のどれか一つでも断ち切ることができていれば事故や災害という破局に立ち至るのを防ぐことができたはずであり、そのためには問題となった事故や災害に関するあらゆる諸要因を拾い出し、それらの連鎖関係を時系列に沿って樹形図状に整理して原因を究明するとともに、大事故や災害(アクシデント)にまで至らなかった小事故(インシデント)から教訓を引き出すことが大切である、という著者の主張は明快で力強いものです。
 以下に目次を小項目まで掲げます。

I    日航ジャンボ機墜落事故の死角
フェイル・セーフの崩壊 ジャンボ機事故史の総点検 欠陥見落としが生む危険な連鎖  「意図せざる遺言」のメッセージ 失速警報・振動する操縦桿 緊急警報は何も教えてくれなかった 巨大技術システムの限界

II   安全性の死角
安易なミス論からフェイル・セーフへ 巨大システム時代とハインリッヒの法則 教訓の宝庫・インシデント 工学と安全率向上のソフトウェア 事故の第二段階の「封じ込め」 「落とし穴」のメカニズム 警報システムが破られるとき 安全基準はミニマムかマキシマムか 生き残るためのサバイバル・アスペクツ

III  人間能力の死角
見直されるヒューマン・ファクター 些細な「不注意」の重要な背景 身近な商品事故の原因分析 管制官の告白するニアミス体験 年間死傷者9万人の労災事故の分析視点 プロフェッショナルの条件 事故の少ない国の人間関係論 自動化装置と人間心理の弱み いま、安全人間工学の視点 「誰がやったのだ」からの訣別

IV   巨大化時代の死角
タワーリング・インフェルノの想像力 予測されていた346人墜落死 原発事故パニックとラジオ情報 巨大タンカーのコントロール限界 船首切断・1万2千トンの異常大波 大韓航空機追撃事件は「不測の事故」か

V    都市災害の死角
求められる防災の発想の転換 電車をも飛ばす風の怖さ 原点としての建物の耐震性 建築災害・繰り返しの論理 地震警戒宣言と情報パニック 都市災害調査機関の設置を 自動車1千200台を呑みこんだ集中豪雨 中近東諸国の泥レンガ家屋を笑えない 下町に生まれた市民防災研究所 現場こそ災害の最大の教科書 危機一髪・生死を分けた条件 加速する災害を忘れる速さ

あとがき
解説(倉嶋 厚)
初出紙誌一覧

 I から V まで「死角」の種類ごとに部立てがなされていますが、各小項目はもともと個々別々に雑誌や新聞に発表した論説に加筆訂正したもので、それぞれが読み切りの体裁になっています。そのため「個室」(トイレともいう)に常備して一話ずつ読む、という用途にも適しております。
 『マッハの恐怖』正・続や『恐怖の2時間18分』のように一つ一つの事故を集中的に追って執拗に原因を究明してゆく作品とテイストは異なりますが、諸要因の連鎖に着目した原因究明とインシデントの重視という原則論から、具体個別的な事例への応用編・技術論まで様々な内容が含まれています。何といっても30年前の出版であり、中には今では古くなってしまった内容も含まれてはいますが、原発事故やゲリラ豪雨、直近では鬼怒川の堤防決壊による水害など、今でも事故や災害は絶えず、被害は出ています。防災・減災についての心得として現在でもなお有用な内容が多いと思いました。

 ところで著者は
「事故調査の方法と目的には、大きく分けて二つの異なった考え方がある。一つは、直接の責任者に対する刑事罰や処分を目的とした、責任論的な考え方である。(中略)日本の社会では、このような責任論が広く容認され、責任者を厳しく処罰することで、社会は一つの満足感を得、処罰が軽いと、人々は「甘い」といって非難する。
 もう一つは、いったいどういう条件の重なり合いの中で事故が起きたのか、その諸要因をすべて洗い出し、それら一つ一つの要因について、何が行われていなかったから事故を防げなかったのか、裏返していえば、事故を防ぐにはいかなる対策が取られるべきだったのか、という技術論的な考え方である。」(pp.89-90)と書き、「現代の高度なシステム産業において、以上二つのうちのどちらの考え方を採るのが妥当であるかは、もはやいうまでもなかろう。」(p.90)と述べています。私はこの「技術論的な考え方」は、事故や災害だけでなく、たとえば新国立競技場の問題やオリンピックのエンブレム問題などへも十分応用可能で効果のあるアプローチであろうと思います。
 これらの問題について、少なくとも世間では著者のいう「責任論的な考え方」が幅をきかせ、犯人探しと特定個人に対する集中的で執拗な攻撃がなされるという結果になってしまいましたが、然るべき人々や機関においては、著者のいう「技術論的な考え方」にもとづく検討はきちんとなされたのでしょうか。両問題とも白紙に戻して再スタートすることになった今、今回の結果に至った要因の分析と原因究明がきちんとなされていないとしたら、再び同様の結果になりはなしないか、不安です。
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