<< 七五調における七音句冒頭の休拍の有無による表現内容の違いについて | main | スズメの子 >>
登美ヶ丘とナガスネヒコ、ニギハヤヒ
 私が幼稚園から小学5年生までを過ごした奈良市の鶴舞団地の北側に、登美ヶ丘(とみがおか)という地域があります。今では近鉄けいはんな線の終着駅「学研・奈良登美ヶ丘」によってその名が全国に知られるようになりましたが、地名としては登美ヶ丘に加えて東登美ヶ丘・西登美ヶ丘・南登美ヶ丘・北登美ヶ丘が全て揃い、さらに中登美ヶ丘まである(白・發はないの?<こらっ)という広大な地域で、けいはんな線の駅は北登美ヶ丘の街区に隣接しています。鶴舞団地は集合住宅ですが登美ヶ丘は(鶴舞団地と同じ集合住宅の中登美団地を除いて)整然と区画された街路に沿って一戸建てが果てしなく建ち並んでいて、団地っ子の私は登美ヶ丘に住んでいる人はみんなお金持ちだと信じていました。

 この登美ヶ丘はかなり広い地域にもかかわらず、いかにも「造成したときに新しく作ってつけました」という雰囲気の「登美ヶ丘」とそのヴァリエーション以外に地名が見当たらないことから、もともとは山林で集落がなかったところを大規模に造成して宅地にしたと考えられますが、最近になってなぜそんな名前をつけたのかが気になってきました。「…ヶ丘」は振興住宅地名の定番ですが、その前についたのが、たとえば「夢」とか「希望」でなくて、なぜ「登美」なのか。せめて「富」だったらいかにもお金持ちが住みそうだけど…。
 調べてみると、「登美」は古事記・日本書紀の昔にこの辺りを支配し、高千穂の宮から東征して大和に入ろうとする後の神武天皇の一行を一度は撃退しながら後に討たれたナガスネヒコという人物にちなむ地名であるらしいことがわかりました。奈良では新興住宅地の地名もなかなか侮れません。
 古事記中巻には「登美能那賀須泥毘古(とみのながすねびこ)」または「登美毘古(とみびこ)」、日本書紀巻第三には「長随彦(ながすねひこ)」として登場するこのナガスネヒコという人物に関する伝えは古事記と日本書紀で微妙に異なるのですが、共通して描かれているのは、大阪湾方面から生駒を越えて大和に入ろうとした神武一行と戦って大きな痛手を負わせ、大和に入るために吉野を経由する大迂回を強いた、その勢力の強大さです。国家の正史である「日本書紀」が、大和政権の初代の統治者である神武天皇を一度は打ち負かした人物として敢えてその名を伝えるほどですから、相当な傑物であったことは間違いありません。
 ところで「日本書紀」によると、ナガスネヒコには「自分は天神の子である」と名乗って妹を娶った櫛玉饒速日命(くしたまにぎはやひのみこと、記紀では系統不明)という後ろ盾がいたと伝えます。あるいは彼は「天神の子」を名乗るニギハヤヒと「自分こそ天神の正嫡」と主張する神武との間の天孫一族のお家騒動に、心ならずも巻き込まれてしまったのではないでしょうか。しかも日本書紀では、当のニギハヤヒが天孫一族は自分ではなく神武に味方するであろうことを知り、またナガスネヒコの人となりは土着の民が天孫族の支配を平和裏に受け入れるよう調停する役には向かないと見て、ナガスネヒコを殺して神武に投降し、取り立てられて物部(もののべ)氏の祖となったと伝えます。つまりニギハヤヒはナガスネヒコを利用するだけ利用し、いざ自分の身が危うくなると見るやナガスネヒコを見限って神武側に寝返ったのです。
 ナガスネヒコが「天神之子ニギハヤヒ」という権威と組むことによって勢力を伸ばしながら、それゆえに神武に討たれ、しかも頼みの綱のニギハヤヒにも寝返られてしまったとしたら、それは歴史の皮肉と言う他ありません。彼の無念の涙と血は、その故地を流れる富雄川(とみおがわ)に注いだことでしょう。しかし私は、彼が抱いたに違いない恨みも何も涙と一緒に富雄川の「水に流し」てしまい、今では幸魂・奇魂(さきみたま・くしみたま)となって、千をもって数えるほどの年を隔てた今、再び自分にちなむ名を負うこととなった自分の故郷とそこに住む人々を守り続けていると信じたいし、そうあることを願っているのです。

 この富雄川流域にはナガスネヒコ、ニギハヤヒに関係する神社や遺跡が多いのです。訪ねてみたい所がまた増えました。

奈良歴史漫歩 No.039  長髄彦の故地 

「歴史倶楽部」による饒速日の命の遺跡探訪
| 地域とくらし、旅 | 22:39 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://hoch.jugem.jp/trackback/73
トラックバック

CALENDAR

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30      
<< April 2017 >>

SELECTED ENTRIES

CATEGORIES

ARCHIVES

RECENT COMMENT

RECENT TRACKBACK

MOBILE

qrcode

LINKS

PROFILE

SEARCH