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最近読んだ本:『魚博士が教える魚のおいしさの秘密―食べどきはいつか、なぜか?』(坂口守彦・村田道代・望月聡・横山芳博 1999 はまの出版)
 先日ひさしぶりに八重洲ブックセンターに行ったら、8階にアウトレット本のコーナーがありました。アウトレット本とは出版元が定価(再版価格)を解除した本で、古書とは違って新刊書(ちょっと前の、ですが)です。どうせたいした本はないんだろうと高を括って、それでも掘り出し物はないかと見てみると、以前本ブログで取り上げた『増補 江戸前鮨仕入覚え書き』(長山一夫 2004 アシェット婦人画報社)の続編『續 江戸前鮨仕入覚え書き』(長山一夫 2011 ハースト婦人画報社…あれ、アシェットさんは?)が定価2000円+税のところ900円+税で出ていてさっそく購入。
 この『續 江戸前鮨仕入覚え書き』もいずれ読んだらこちらで紹介しますが、こんなに内容が濃くて良い本もアウトレット本になっているのなら…とさらに探していくと、同じお魚本ながらぐっと読みやすそうな本書を発見。こちらも定価1500円+税のところ500円+税というお買い得お値段になっていたのでこれまたお買い上げ。八重洲ブックセンターのアウトレット本コーナーは今後も注目ですよ。
 書名に「魚博士が教える」とあり、またまえがきに「本書は魚介類のおいしさやその成り立ちなどについて書かれたものですが、文系のエッセイストが書き記したソフトな感覚の書ではなく、科学者が書いたややハードな感覚の読み物となることを意識して作りました。」とあるとおり、4名の著者は皆さん農学博士で、本文にもオリゴペプチドとかヌクレオチドとかグルコースレセプターとかトリメチルアミンオキシドとか、いわゆる「舌をかみそうな」単語がいっぱい出てきます。しかし話の筋をたどるのは難しくなく、新しい発見もあり、上に挙げた『増補 江戸前鮨仕入覚え書き』の内容を補強する記述もありました。
 たとえば魚の死後硬直について書かれた内容は私にとっては新しい発見でもあり、ちょっと理解に苦しむものでもありました。本書に曰く
「生きている魚を例えば首に包丁を入れてしめると、最初は柔らかかった魚体が時間の経過とともにカチカチになってしまい、いちばん硬いときには棒のような硬さにまでなってしまいます。これを「死後硬直」と呼んでいます。(中略)京都大学の豊原治彦博士らの研究グループは、種々の魚の死後の筋肉の硬さ(歯ごたえに当たる)をレオメーターで測定するとともに、死後硬直の進行速度を同時に測定した研究結果を報告しています。それによると、まず、どのような魚においても、完全硬直の状態、すなわち、魚体がカチカチの状態になるまでには数時間から数十時間かかるのですが、筋肉の硬さは魚体が完全硬直に達した時点が最も硬いのではなく、致死直後あるいは致死直後からほんの少し時間が経ったときに最も硬く、その後は柔らかくなっていくといわれています。」(pp.72-74)
 これは意外、というか、筋肉が死後すぐに柔らかくなっていくのなら、死後硬直って筋肉以外の何が硬直してカチカチになるんでしょ・・・?
 また貝類の濃厚な味が、体内の浸透圧を海水と同程度に高めるために体内にため込むアミノ酸など(オスモライト)のためであること(魚類では体内に入ってくる塩分をエラや腎臓の働きにより積極的に体外に排出して体内の浸透圧を低めているため、アミノ酸等を貝類ほど多く体内にため込む必要がない)、京都の鯖ずしの鯖やしめ鯖では、酢に漬けることでpHが下がり、それにより筋肉中の酸性プロテアーゼ(酵素)の働きでタンパク質が一部分解され、遊離アミノ酸やペプチドが生成され味がよくなること等も、私には新しい知見でした。

 一方、以前読んだ『増補 江戸前鮨仕入覚え書き』で
「「活きている魚=美味」の図式は貝類にだけは当てはまるが、他の全ての魚は、瞬時に締めてから、一定の時間経過によって、はじめて身質が熟成され、旨みの発揮が増大、加重される。この所要時間は、魚種とその量目(サイズ)、取り扱い方、温度等により大きな差が生じて来る。「プリンプリンの食感=最高の美味」はもったいない味覚の錯覚である。熟成時間が全くないため、総合的旨さの発生に欠け、個々の魚の旨さの持ち味も発揮されず、全ての魚の旨さがまるで同一化してしまうことになる。」
と書かれていたことが、本書では次のように裏付けられています。
「刺身を口に入れ、一口二口かむだけで私たちはうまい、まずいを判断しています。このうま味に最も重要な物質はグルタミン酸(Glu)とイノシン酸(IMP)です。(中略)「Glu」は魚肉中には実は単独でうま味を感じさせるほどには含まれていません。しかし、そこに「IMP」があると相乗効果でぐんとうま味を発現しますので、こちらの方が大切なのです。(中略)いずれにしても、うま味のある刺身とは、この「IMP」を充分もっているもののことです。「IMP」は通常、魚が生きている間は非常に少ないのですが、死んでしばらくすると増えてきます。魚が死ぬとほどなく筋肉中のアデノシン−3−リン酸(ATP)が急速に減少し始め、アデノシン−2−リン酸(ADP)、アデノシン−1−リン酸(アデニル酸=AMP)を経てイノシン酸(IMP)へと分解されるためです。(中略)魚を氷蔵した場合、「IMP」を最大値に達するのは、マアジで7〜8時間、ハマチ、タイで10〜12時間、ヒラメでは17時間ほど経過したころです。」(pp.54-56)
 つまり『増補 江戸前鮨仕入覚え書き』で「熟成」と表現されていたことの正体が魚の筋肉中のATPがIMP(イノシン酸)へと分解される行程であること、イノシン酸が多いほどグルタミン酸(Glu)との相乗効果でうま味を感じられること、イノシン酸が最大となるには魚種により異なるがかなり時間がかかることが、本書によって明らかになりました。
 さらに煮魚や焼き魚ではこの「熟成」が問題にされないことも、本書で「その理由は、肉に含まれるアデノシン−3−リン酸(ATP)が加熱という操作を加えることで、速やかに「IMP」にまで分解されるからなのです。」(p.166)と説明されています。なるほど〜。

 以上のとおり本書ではお魚のおいしさの正体、どうすればお魚をもっとおいしく食べられるか、それはなぜかといったことが科学的に説明されていて、しかも決して無味乾燥ではなく、読みやすくおもしろかったです。これが500円(税別)はお買い得でした!
| 食に関する本 | 19:55 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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