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2014年2月奈良行き 3.JR奈良駅から佐保川へ
(承前) 棚田嘉十郎を追悼した私は、続いて佐保川を見るべくJR奈良駅前から北へ進んで油阪交差点を右折、大宮通りを東へ進んで近鉄奈良駅前に出ました。大宮通りは40数年前まで近鉄電車が路面電車状態で走っていた通りですが、今となってはその痕跡などあろうはずもなく・・・。時刻は午前8時半頃、晴れてきました。それはいいんだが、まだ朝食を済ませていません。駅のそば屋か駅前のチェーン店ででも・・・と考えていたのですが、なぜかそのテのものに出会わず。まあ、そのうち何とかなるだろう。

聖武帝感得やくよけ観世音<近鉄奈良駅前から北へ「やすらぎ通り」を曲がり込んだところで、「聖武帝御感得 やくよけ観世音」と大文字で刻んだ大正十年十二月に建てられた石塔発見。奈良では街角に天皇さんが立っている。茨城では見らんねえわ、絶対。>

 これから行く佐保川は奈良から大阪へ流れる大和川の一支流で、奈良市東北方の春日山中に源を発し、奈良市街の北側を西へ流れ、近鉄線の新大宮駅の先あたりで南へ向きを変え、奈良市街を流れてきた率川(いざかわ)等を合わせながら平城京の羅城門の方へ流れていきます。奈良市街北側の流域が「佐保」の地で、平城宮の東北郊に当たり、奈良時代には貴族の住宅地で、長屋王の邸宅「作宝(さほ)楼」や大伴氏の宅地もここにあったようです。またその北側の丘陵地は「佐保山」と呼ばれ、聖武天皇や光明皇后の御陵があります。佐保川や佐保山、佐保の地は万葉集の歌にも詠まれ、当時の人々に親しまれていました。
 そして私にとっては何と言っても昨年の12月に亡くなった私の高校の後輩の佐保子さんのゆかりの地です。佐保子さんの母君は若き日に奈良女子大学で学び、その傍らを流れていた佐保川の名を娘に付けたとのこと。そして奈良女子高等師範学校・奈良女子大学の同窓会は「佐保会」。もともと佐保川は同大学の学生に親しまれた川でもあったのです。
 近鉄奈良駅からまっすぐ北へ、通称「やすらぎの道」を500mほど歩くと、その名も「佐保橋」で佐保川を渡ります。その佐保橋の南東側一帯に奈良女子大学のキャンパスが広がっています。佐保子さんを偲ぶなら、ここだな。興福寺や東大寺、奈良公園や「ならまち」とは全然方向が違うからこっちの方へは一度も来たことないけど、佐保子の佐保川を見るならここしかないよ。
奈良女子大学  右手に奈良女子大学の建物を見ながら佐保橋へやってきました。擬宝珠の着いた擬木の欄干を持つ、洒落た橋です。

佐保橋欄干<左写真は佐保橋の欄干。右写真は奈良女子大学。これはわかりやすい。>

佐保橋から佐保川上流佐保橋から佐保川下流<左写真は佐保橋から佐保川の上流側を望む。写真右側が奈良女子大学。奥に春日山地がかすんでいます。冬だからか水量は少ないようです。右写真は同じく佐保橋から下流側を望んだところ。こちらは閑静な住宅街です。>

  佐保川の川波立たず静けくも君にたぐひて明日さへもがも(万葉集巻十二・3010)

 佐保川に波が立たず静かなように、心静かにあなたと一緒に、明日までも――万葉集の昔から人々の暮らしに寄り添ってきた佐保川は、今も橋の下を静かに流れていました。

佐保橋全景佐保橋周辺案内図  ふと気がつくと、佐保橋のたもとに案内板があります。これを何気なく覗き込んだ私は次の瞬間びっくり仰天、思わず「えぇ〜っ!」と声が出ました。赤く「現在位置」と記された所の下流側、程遠からぬ所に「大佛鐵道記念公園」があるのを見たからです。これは・・・まさか、佐保子の仕業!?そうだ、そうに違いない!

<上の左写真は佐保橋全景。向こう側の欄干のたもとに問題の案内板が見えます。右写真は案内板。真ん中の「現在位置」から上(方位としては西)に赤線の道をたどっていくと、そこに衝撃の「大佛鐵道記念公園」が!>

 佐保子さんは昔からそういう人でした。普通の人が気づかない、目立たないものなんだけれども掘り下げてみるとすごく面白い、そういうものを見つけてきては教えてくれたのです。JR南武線に2009年にできた西府駅が実は全くの新設駅ではないことを教えてくれたのも、国立にぶどう園があったのを教えてくれたのも佐保子さんでした。そんなつもりは全然なくてただ佐保川を見に来ただけなのに、「あのー金田さん、大仏鉄道がここら辺を通ってたんですよぉ〜」なんて、そんなこと佐保子じゃなくて誰が言う?やられたよ佐保子!不意を突かれて、私はちょっと泣きそうです。

明治時代の関西鉄道  ちなみに大仏鉄道は奈良のテツにはマストアイテムですが、全国的に知られてはいないと思うので、ちょっと一言。関西本線の前身の関西鉄道が名古屋方面から大仏参詣など奈良への観光客誘致を目的に、明治31(1898)年4月19日に現在の関西本線加茂駅から黒髪山を越えて大仏駅まで、翌明治32(1899)年5月21日に奈良駅まで開通させた鉄道が大仏鉄道です。今の関西本線は加茂から木津−平城山−奈良と走っていますが、大仏鉄道は加茂から奈良までショートカットしていたわけです。
<上図は明治時代の関西鉄道の路線図。黒い太線が右の方の名古屋や津から左へ走り、柘植(つげ)で草津からの線を合わせ、加茂までやってくると、そこから斜め下に奈良へ向かうグレーの線(図には「大仏線」と表記)が見えます。このグレーの区間が大仏鉄道なのです。>

大仏鉄道と関西本線月刊ならら大仏鉄道特集号 しかしこの大仏鉄道は途中の勾配がきつく、後に関西本線が木津を経由する現在のルートに切り替えられたため、大仏鉄道ルートは明治40(1907)年に廃止されました。ですから大仏鉄道を実際に汽車が走ったのはわずか9年間に過ぎないのですが、ルート上に点々と残っている遺構は近代化遺産として評価されており、地元の雑誌「月刊大和路ならら」の2013年11月号でも「郷愁の大仏鉄道」という特集が組まれるなど、奈良では今でも根強い人気があります。
<上の左図は2011年に購入した「平城遷都1300年記念 集成図「奈良」セット」に含まれている「100年前の奈良周辺」という図の一部に私が赤で補筆したもの。原図は明治41年測図の2万分1正式図「奈良」他を集成したものですが、実に好都合なことに関西本線と大仏鉄道の両ルートが地形図上に表現されています。大仏鉄道は明治40年に廃止されたのですが、地物としては残っていたので明治41年測図の地形図に表現されたのではないかと思われます。関西本線は現在のルートとほぼ同じ、大仏鉄道の「大仏駅」が、今の「大佛鐵道記念公園」になっています。右写真は「月刊大和路ならら」の大仏鉄道特集号。当然チェック済み。>

大仏鉄道記念公園  というわけで、佐保子さんが教えてくれた(と私は今でも信じている)「大佛鐵道紀念公園」を見に行きました。
 そこは住宅地の中の一角で、レールを象った台座に機関車の動輪のモニュメントと、平成4(1992)年に奈良市が立てた「法蓮町の由来」という石の案内板があるばかりの静かな空き地です。モニュメントの台座には次のように刻まれた金属のプレートがはめ込まれています。「/」は例によって改行を示します。

大仏鉄道記念公園モニュメント「   関西鉄道大仏駅について
明治二十八年に草津・名古屋間を全通した関西/鉄道は、柘植から大阪方面への進出を計り、二/年後の三十年十一月に加茂まで開通した。
ここから梅谷を経て黒髪山トンネルを下り、明/治三十一年四月、この地の北側法連の交番所の南あたりに大仏駅を設置した。
この鉄道は、市民・観光客にも親しまれ、大仏/詣での人達もこの駅で下車し一条通りを通って/東大寺に参拝していた。奈良駅へは、その年の/十二月に到達したが、乗り入れが実現したのは/翌三十二年五月であった。その後、路線が木津/経由に変更となり、明治四十年八月までの約九/年間で廃止された。
昭和三十九年頃までは、トンネルも残っていた/が、現在は取り壊されて当時の面影はいまは見/られない。
     平成四年四月 奈良市」
<上の左写真は大佛鐵道記念公園。正面右にモニュメント、左に「法蓮町の由来」の案内板があります。右写真はモニュメント。台座に金属プレートがはめ込まれています。>

 この、今では何の変哲もない静かな静かな住宅地を貫いて115年前に線路が走り駅ができ、蒸気機関車が牽く列車が満員の乗客を乗せて到着し、人々はここで汽車を降り、北側の一条通りをぞろぞろと歩いて大仏に詣で、帰りにはお土産の荷物を抱えて再びここから汽車に乗って去って行ったというのです。その当時は人々の楽しげな会話や喧噪、乗客相手の出店や立ち売りの売り声、汽笛の合図、駅員の笛、石炭や鉄の匂いがこの辺りに充ち満ちて・・・そしてそれは9年間だけ続いて終わった。人々は去り、駅舎やレールも取り片づけられて、今では何もないのです。まるで夢のような話です。
 いや、実は何もないわけではない。私は見ませんでしたが、ここで佐保川を渡る下長慶橋の西側の欄干からは、流れの中に大仏鉄道佐保川鉄橋の橋台の煉瓦が見えるそうです。それはここ法蓮町が110年前に9年間だけ見た夢の、たった一つの名残りなのでしょう。

 佐保子さん、ありがとう!

続く…
| 地域とくらし、旅 | 22:19 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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