オートフォーカスでないカメラの多くは、内蔵距離計や一眼レフのピントグラスのようなピント合わせをアシストする仕組みを備えています。ところがペトリカラー35を含む昔のコンパクトカメラなどにはこうした仕組みを持たないものがあり、カメラに頼らずに被写体までの距離を測り、その数値をレンズに移さなければなりません。この場合はゾーンフォーカスマーク(半身像−近距離、グループ−中距離、山−遠距離といったマーク)の表示があればそれに合わせ、それもなければ「うーん3mだな」と目分量で測ってその距離にレンズを合わせます。ペトリカラー35の取説にも「焦点調節/目測式」と明記されています。で、目測でのピント合わせの強い味方が以前紹介した「被写界深度表」です。下の表ですね。
これをつらつら見ますと、次のことがわかります。
1) 被写体までの距離が遠くなるほど被写界深度(ピントの合う範囲)は大きくなる。
たとえば絞り2.8のとき、被写体までの距離が1mでは94cmから106cmのわずか12cmの間でしかピントが合わないが、5mならピントの合う範囲は3.81mから7.26mの間の3.45mになる。
2) 絞りを絞るほど被写界深度は大きくなる。
たとえば3mに合わせたとき、絞り2.8では2.53mから3.68mの間にピントが合うが、絞り22なら1.22mより遠くの物には全部ピントが合うことになる。
つまり風景や遠くの物を撮るなら目分量が大雑把でもだいたいピントが合うし、不安なら絞りを絞れば大丈夫なわけです。ところが問題は被写体に近づいてアップで、しかもごちゃごちゃした背景はぼかして被写体だけがフワッと浮き上がるような絵が撮りたい!というときです。絞りを開くほどピントの合う範囲は小さくなるので背景はボケますが、ちょっと目分量が狂うと被写体も一緒にボケちゃうわけで、これはジレンマですよ(通の方からは「目測式のカメラでそんな絵を撮ろうとするのがそもそも間違っておる!」とお叱りを受けそうですが・・・)。
そこで登場するのが秘密兵器、光学式の単独距離計ですよ。
<上は元箱、下が本体。中古のため元箱はかなりボロボロですが、それでも燦然と(?)輝く Leitz の文字。 これはライカのメーカー、エルンスト・ライツ社製の FOKOS という品番のクロームメッキタイプの単独距離計です。(箱の表記は Fokoschrom)。私は別にライツ / ライカにこだわりはないのですが、行った店にたまたまこれがあったので買いました。金回りが良かった頃、もう20年くらい前のことでしょうかね。今じゃとてもそんな買い方はできません・・・>
<左は撮影者側、右は被写体に向く側です。なお、この写真を撮ったときには気づかなかったのですが、この写真の状態ではカメラのアクセサリーシューに取り付けることができません。左の写真や上の元箱と一緒の写真(上の写真の方がわかりやすい)をよく見ると、角柱状の本体の左端とそれをふさぐように付いている円板との間に薄い金属板が入っているのが見えますが、これの向きが90度違っていました、この向きだと金属板のツマミの部分が左右にヒレのように張り出してアクセサリーシューと干渉してしまいます。この金属板を90度回してツマミが前後に来るように付け直してアクセサリーシューに付けられるようになりました。後述しますが、実はこれまでカメラに付けて使ったことがなかったんですよね〜。>
<先ほどは「別にライツ / ライカにこだわりはない」なんて書きましたが、この刻印を見るとやっぱりニマニマしちゃいますね、へへ・・・>
さてこれはどういうものかといいますと、上の撮影者側の写真でダイヤルの左側にある覗き窓から被写体を覗くと二重に分離した像が見えます。この二重像を見ながら中央のダイヤルを回して像がぴったり重なるようにすると、そのときのダイヤル上の距離が被写体までの距離になるので、これをレンズに移します。縦型と横型があり、これは縦型なのでカメラに付けるとこーんな感じ。
<距離計の端の円板状の部分がアクセサリーシューにはまるようにできています。この絵は被写体側ですが、撮影者側からは覗き窓が下側に来て、二重像は上下に分離・移動します。人間の目が水平方向(左右)に付いているせいか、片目で覗くとはいえ二重像が上下に分離・移動するのは感覚的には不自然で、正直ちょっと使いづらいです・・・>
横型(カメラのアクセサリシューに水平に取り付ける)の方が目立たないしカメラとの一体感もありますが、カメラの上面(軍艦部)にはいろいろなダイヤルやボタン類があるのが普通で、それらと干渉するのを避けるために距離計をシューから持ち上げてクリアランスを取らなければならず、さらにダイヤル操作を邪魔しないように水平にスイングする仕組みを持ったものもあり、どうしても造りがごちゃごちゃします。その点縦型は構造がシンプルで美しく、いかにも「距離計付けてます!」というレトロな物々しさも悪くない。
とはいえ、アクセサリーシューに付けても別にカメラと連動するものではないので、実際にはカメラに付けず必要なときだけこそっとポケットから出して使ってます。ライツの距離計は純正ライカのアクセサリーシューに付けたときに正しくフィルム面からの距離を示すので純正ライカで使うときはシューに付けるべきなんだそうですが、シューの位置とフィルム面の関係はカメラによってまちまちなので、ペトリカラー35で強いてアクセサリーシューに付けるメリットはありません。それにペトリカラー35のアクセサリーシューはボディ後端に近いところに設けられていて、距離計をシューに付けても直接目に当ててもその差は数mmにしかならないのだから、それならカメラの取り回しや収納に邪魔にならない方がいい!
距離計は目測式のカメラで被写界深度がシビアな近距離での撮影には便利です。逆に目測でも十分ピントが合う遠距離ではメリットはありません。ただオートフォーカスが当たり前になった現在では当然需要はなく生産もされていないので、こういう光学式距離計は限りなく趣味のものですね〜。単純にブツまでの距離を測るだけならレーザー式や超音波式の距離計の新品が数千円で手に入りますし。
もっともレーザー式は人や動物相手にはちょっと使いづらいし、そもそもレーザーなり超音波なりが相手に吸収されたり攪乱されたりしないでちゃんと戻ってこないと測定できません。ポラロイドカメラのSX-70シリーズに搭載された超音波式オートフォーカスは窓越しの風景にはピントが合わなかった(超音波がガラスで反射され窓にピントを合わせてしまった)そうです。やっぱり古いカメラには目で見て手で合わせるローテクがお似合いですね。