<< ペール・ギュント組曲版スコアの「はしがき」〜第一組曲の1「朝の気分」 | main | グラーネという馬 >>
ペール・ギュント組曲版スコアの「はしがき」その2〜第一組曲の2, 3, 4
 「ペール・ギュント」シリーズ第2弾です v(^^)。今回も組曲版「ペール・ギュント」のスコアの「はしがき」を検討しますが、前回の「朝の気分」の調子でやってるといつまでたっても終わらないので(汗)、今回からは問題のある所をピンポイントでやっていくことにします。

オーゼの死(全曲版) というわけで、さっそく第一組曲の2「オーゼの死」の「はしがき」の後半を見てみましょう。曰く
「劇中で「オーゼの死」は2度奏でられる。最初はオーゼの部屋で、次は舞台裏からで、彼女が息をひきとった時にペールのせりふをのせて奏でられる。」
 太字で示したとおり、問題点は二つ。まず「最初はオーゼの部屋で the first in Aase's room」が意味不明。舞台上のオーゼの部屋のセットの中で演奏されるということ? しかし全曲版ではこの曲はまず第三幕の前奏曲として演奏されることになっていて、グリーグは奏者の場所を特定してはいませんし、続く第1場はイングリードとヘッグスタ農場を敵に回したペールが村に戻れず、仕方なく雪の降る森の奥で自分の小屋を建てている場面で、オーゼの部屋のセットは出てません。またイプセンのト書きにも演奏者がどこでどうしろなんて一言も書いてありません。じゃあオーゼの部屋って、どこ? それってひょっとして、2度めの演奏の場面(第4場 オーゼの部屋)と混同してません? でもそのときは楽隊は「舞台裏から」とスコアに指定されてるし・・・やっぱり意味不明。 
<写真は「オーゼの死」全曲版スコアの表題部。「オーゼの死」(第三幕の前奏曲)という表記に続いて 「この曲は(pp、舞台裏で)第4場のペール・ギュントのセリフ「はいどう!走れ黒よ!」から「つまらぬ騒ぎは止めなさい。オーゼは好きに入るがよい!」までの間でもう一度演奏される」と記されている。>

 次に「息をひきとった時に」は、息をひきとるのと音楽の演奏のタイミングの問題からみて、あまりよろしくない。PREFACEの文は when she dies. で、「息をひきとる時に」の方がよい。実際この曲が2度目に演奏されるのは第4場、オーゼの部屋の場面で、オーゼはペールの語る天国の話を聞きながら眠るように息絶えますが、そのペールの語りの伴奏としてこの曲がずっと流れているのです。「ひきとった時に」では、息をひきとったその時から演奏が始まるように受け取られかねませんが、この曲はオーゼが死んだことに対して演奏される追悼の音楽ではありません。息をひきとるかなり前から、ペールと会話しているときから演奏されていて、眠るように死んでいく母親を静かに見送る音楽なのです。
<私の修正案>
「劇中で「オーゼの死」は2度奏でられる。最初はオーゼの部屋で第三幕の前奏曲として、次は舞台裏から同じ幕の第4場で、彼女がペールの語る天国の話を聞きながら息をひきとった時ひきとる場面で、ペールのせりふをのせて奏でられる。」
 
アニトラの踊り(全曲版) 続く「アニトラの踊り」(第一組曲の3)の「はしがき」の最後の文も怪しい。「官能的で、情熱的な舞踏音楽である。It is a sensual and passionate dance.」と言ってますが、音楽は弦とトライアングルだけで演奏される、エキゾチックだがどちらかと言うと静かな曲で、情熱的 passionate という表現は当たらない。しかも全曲版ではこの曲は「第1ヴァイオリン2、第2ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ2、コントラバス1の9人で演奏してもよい」とされていて、編成を小さくして音量を絞ることによって、観客の注意を舞台上の踊りにより集中させようとしているように思われます。おそらく預言者として崇められているペールの歓心を買うための、誘惑するような(seductiveとでもいいますか)踊りが想定されているのではないでしょうか。
<写真は「アニトラの踊り」全曲版スコアの、編成を縮小してもよい旨を含む注記。>

 ヤルヴィ盤のブックレットによると、グリーグは初演の指揮をとったヨハン・ヘンヌムに宛てて手紙を書いていたということで、ブックレットにはその手紙の中の各曲に関連した部分が摘記されています。実はその中に「官能的で情熱的」という表現が出てくるのです。ただしそれは「アニトラの踊り」ではなく、全曲版で「アニトラの踊り」の次に置かれている「ペール・ギュントのセレナーデ」(全曲中ペールが歌う唯一の歌)に対してで、グリーグはそこで「セレナーデは官能的で情熱的でもあり、また皮肉めいた感じでもなければならない。」と書いています。一方「アニトラの踊り」に関しては「小さな、静かな舞曲。美しく、繊細に演奏してほしい。小さなペットのように扱ってもらえればありがたい。」と言ってます。
 うーん、ひょっとしたら「はしがき/PREFACE」の著者はこのグリーグの手紙を知っていて、しかもわざと他の曲とごちゃ混ぜにしてるんじゃないか?(←サイギのマナザシ)
<私の修正案>
官能的で、情熱的な舞踏音楽である。
当然このアヤシイ文は全文削除。

 ここまで来たら、第一組曲の4「山の魔王の宮殿にて」も一気に片付けてしまいましょう。「はしがき」の中に数箇所「巨人トロル giant troll」という語が出ていてちょっと気になりますが、トロル=巨人という認識も広くあるらしいので、今はそれは措きましょう。ここでまずいと思うのは、やはり最後の一文。
かくして、山の妖怪たちがペールをいじめ迫害するさまが、手にとるように感じとれるのである。 In this way, one can vividly feel how Peer is tormented and persecuted by the mountain monsters.」
山の魔王の宮殿にて(全曲版) しかし実はこの場面では、トロルたちはまだペールに対して、いじめや迫害の直接行動には出ていません。王の娘をたぶらかした男=ペールに対する反感から、彼らは次のように歌い踊りながらペールを威嚇する動作をしますが、実際に手を出してはいない。せいぜい「おどし」です。
こいつを殺せ!キリスト教の男が、ドヴレ王の一番美しいお嬢さまを弄んだ!
全曲版ではこれが合唱の歌詞として歌われます。
< 写真は「山の魔王の宮殿にて」全曲版スコアの練習番号B付近の合唱と弦パート(練習番号Bは組曲版と同じ場所についている)。合唱パートの最初に「幕が開く(歌と踊りはペール・ギュントに対する威嚇の動作を伴って)」というグリーグの注記が見られる。つまり山の魔王の宮殿の広間の場面である第6場は(イプセンのト書きとは多少食い違うが)ここまで幕が下りていて、幕が上がるといきなりペールがトロルたちに囲まれて威嚇されている、ということになる。>

ドヴレ王は彼らに「頭を冷やせ!」と一喝すると、ペールがトロルになるなら娘婿に迎えて、いずれは王国を譲ろうと提案します。何せ愛娘が惚れて連れてきた男ですから、王はむっとしたでしょうが、娘の手前ここでペールを迫害したりいじめたりはできないわけで、娘に弱い、いいお父さんですね。しかし一度トロルになってしまったら二度と人間には戻れないと知ったペールは王の申し出をはねつける。トロルたちが「ペールをいじめ迫害する」直接行動に出るのは、このペールの返事に激怒した王が「こいつを岩に叩きつけて、バラバラにしてしまえ!」と命じてからのことで、グリーグはそこでその様子がそれこそ「手にとるように感じられる」曲を別に書いているのです(この2曲あとのNo.10「ペールはトロルに追い回される」)。「はしがき」の問題の部分は「いじめ迫害するさま」という言い方が曖昧だし、「手にとるように」なんて洒落た言い回しをしてみてる割にはピント外れかな。
<私の修正案>
かくして、山の妖怪たちがペールをいじめ迫害威嚇するさまが、手にとるように感じとれるのであるいきいきと描かれる。
趣味の問題もありますが、「手にとるように感じとれる」は力入りすぎなんじゃないかと思う。

| オーケストラ活動と音楽のこと | 17:01 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://hoch.jugem.jp/trackback/374
トラックバック

CALENDAR

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30      
<< April 2017 >>

SELECTED ENTRIES

CATEGORIES

ARCHIVES

RECENT COMMENT

RECENT TRACKBACK

MOBILE

qrcode

LINKS

PROFILE

SEARCH