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経理部長の愚痴 〜お仕事篇〜

 いつもお気楽なことばかり書いているが、今回は愚痴のひとつも書いてみる。昨年はとにかくひどい一年だったのだ。


 私が経理部長として勤めていた会社(半導体製造装置ベンチャー)は一昨年の後半から絶不調だった。仕事が取れず売上がないから、金がどんどん減っていった。金繰(かなぐ)りの基本は「入(い)るを図り出(いず)るを制す」である。「出る」を制するため、会社は昨年1月から給与を2割カットし、希望退職者を募った。退職者の退職金はなんとか工面して支払った。しかし社員の給与が払えない。相変わらず仕事がなく、肝心の「入る」方がなかったからだ。


 そんな中、政府の緊急経済対策に乗って中小企業向けの緊急支援融資の話が出てきた。金はノドから手が出るほど欲しい。しかし当社に仕事がないことを知っているメイン銀行は、すでに貸している金の返済を猶予するのが精一杯で、新しい金は貸せないと言う。従来あまり取引のなかった地元銀行をなかば強引に説き伏せて融資限度枠いっぱいまで借り、一週間遅れで給与を支払った。昨年の5月の初め頃である。給与を満額支払ったのは、これが最後だった。

 相変わらず仕事は取れない。もう金も借りられない。仕入先への支払いを遅らせると「あそこは危ないらしい」ということになって取引条件が厳しくなるし、電気や水、電話も止められないから、そのツケは給与に回った。定時に支払えなくなる。満額も払えなくなる。やがて労基署が来た。当社の状況を見て「とにかく最低賃金を下回ってはいかん」と言って帰った。どうせ仕事がないのだから、社員には最低限の出勤以外は休業させ、アルバイトも認めた上で、一人一月10万円を限度に支払うことになった。


 当社の窮状を見かねたメイン銀行が取引先の某社に当社への投資話を持ちかけてくれた。某社も半導体製造装置を手がけているが、製品は当社とかぶらないから、シナジー効果が見込めるという。某社は他社に投資した実績もあり、厳しい経営環境の中でも利益を出していた。当社の価値をじっくり見極めて、80%程度のシェアを持ちたいと考えたようだった。


 ところがそこへ降って湧いたように、大型の投資話が持ち上がった。当社の社員某が知り合いの香港の投資家に話をしたところ、その投資家が乗り気になって、手始めに数億円、追って数十億円単位の投資をしようと言い出したというのだ。この逆転満塁ホームランに賭けた社長は早速社員某と香港に飛び、ホテルの一室で投資家と会って投資契約書にサインをしてきた。あとは契約の期日に入金するのを待つだけだ。


 しかし金は入らなかった。問い合わせると多額の円送金に政府の許可が要るという。やがて許可が取れたと言ってきたが、金は入らない。直接当社の取引銀行に送金できないから、経由する銀行を指定しろと言う。冗談じゃない、中国本土からだって送金できてるのに香港から送金できないはずがない。しかしあまりしつこく言うので、もともと外国為替専門銀行だった某行を指定してやった。ここに送金できない銀行は、モグリだ。しかし金は入らない。社長と社員某は再び香港に飛び、投資家と会って話をしたが、二人とも外為だの銀行取引だのには疎いので、うまいことはぐらかされてしまった。


 結局香港マネーは入らなかった。香港の彼は投資家ではなく、ブローカーだったようだ。サイン済の投資契約書(だから契約書としては真正だ)をネタにホンモノの投資家から出資を募り、資金がまとまれば投資を実行して口銭を稼ぐのである。投資が実行されなければ口銭は取れないから、彼も下手な時間稼ぎをしながら一生懸命動いたには違いなかろうが、結局思うように金が集まらないまま時間切れとなった模様である。社長の話によると、彼はラフな格好でしょっちゅう携帯で誰かと話していて、会うときは必ずホテルやレストランで、一度も事務所を見せてはくれなかったという。ブローカーならさもありなん、である。しかもレストランでの飲食代はいつも社長に払わせたというから、相手がよほど上手(うわて)だ。


 香港マネーにかまけていた約一ヶ月の間に資金はますます逼迫(ひっぱく)し、会社の存続に影響がなさそうなところから支払を止めざるを得なくなった。公(おおやけ)への支払、つまり税金や社会保険料などがそれだ。しかしそれもせいぜいもって3ヶ月で、やがて乏しい銀行預金が差し押さえられた。公権力にはこの手がある。
 銀行預金が差し押さえられると、銀行取引基本契約上は期限の利益を喪失する。具体的には、たとえ契約上の返済期日前であっても、銀行は借金を取り立てることができるのだ。税金や公金は優先債権で、銀行の貸付のような一般債権より優先的に弁済されるから、銀行はうかうかしていると貸付金を全額回収できない恐れがある。だから銀行が預金の差し押さえを理由に「今すぐ借金を返せ」と言えば、借り手はたとえ返済日の前であっても返済に応じなければならないことになっている。しかし差し押さえを受けたということは金がないのだから、借金が返せるわけがない。そんなことになれば当然即刻破算、ハイそれま〜で〜よ♪である。


 だが当社の場合、銀行はそうは出てこなかった。それは香港マネー騒動以前に出ていた某社の出資話がまだつながっていたからだ。某社からの資金が入れば、当社が生きながらえる目はあるわけで、銀行は某社の支援を前提に、当社を存続させることにしたのだ。ただしそれにはある制約がついた。
 預金が差し押さえられると、差し押さえ時点での預金残高はそっくり別の口座に移されてしまい、当社はその別口座の金を使うことはできないが、差し押さえ時点以後にもとの預金口座に入ってきた金は使って構わない。しかし銀行としては某社の支援話が壊れた場合に備えて、預金口座には少しでも多くの金を残しておいて、万一の場合にはそれを損失の穴埋めにしたい。そこでその預金口座をロックした。つまりこの口座への入金は普通にできるが、口座からの引き出しは自動引落を含めて受け付けられないようにしたのだ。ただし当社が存続していくのに最低限必要と認められるものだけは、事前の申請により審査の上で支払ってくれる。そして某社の支援話がまとまって金が入ればそれでもって滞納している税金・公金を支払って差し押さえを解除できるから、そうしたら口座のロックも解けるというわけだ。


 しかしそれまでの間はなかなか辛い毎日だ。もともと金がないのに加えて差し押さえられた金額は使えないし、それ以外のわずかな残高だって銀行が認めないと支払いに使えないから、私としてはまず催促のない支払はとりあえず無視せざるを得ない。そのうち「○日までにお支払ください」と督促が来たら、お詫びしながらも支払の引き伸ばしや分割払いを交渉し、「○日までに支払わないと××です」という最後通牒が来たら、これは払わないとしょうがない。文字通りの自転車操業で、なんとか今日まで持ってるのが不思議なくらいだ。肩書きは経理部長でも部下がいない文字通りの名ばかり管理職の私は、それらを一人で引き受けている。幸い某社の支援話は来月中旬をメドにまとまりそうである。「この日まで持ちこたえれば」というゴールが見えているだけ有難い。


 こうした仕事のしかたは精神的にはよくないようで、腹が減っているわけでもないのに何かしら食べながらでないと仕事ができない時がある。「食べる」という行為は即物的に安心するらしい。金やモノなんてどうなるかわからないのだ。取り上げられるかも知れないし、形だけは自分のものでも自由に使えないかも知れない。しかし食べてしまえばもうこっちのものだ。胃袋に収め、さらにそれらが身になってしまえば、絶対に自分のものなんだから!たとえそれが余計な脂肪だったとしても構うもんか(笑)。

 イエスが「わたしのからだ」と「わたしの血」の上に「新しい契約」を立てたのも、それらが絶対に自分のものであるに違いなかったからではないのか?(ルカ 第22章 19-20)

| その他のできごとあれこれ | 01:17 | comments(4) | trackbacks(0) | pookmark |
コメント
おおぉ…そんなに大変な事態であったのですか。

香港の資本のお話など、詐欺一歩手前では…(--;
ご無事で何よりでした。

しかし、お仕事がないということほど寂しいことはないですね。
忙しい、とはなんと有り難い状況でしょうか、としみじみ思いました。

ストレスで糖尿病かなんかになりそうではないですか…音楽で心と体のバランスをとってくださいませね。
| OKAR | 2010/01/27 10:33 PM |
うーん、畑違いのシゴトをしている私には、読み物としては面白いけれど、経験談として伺うのはビックリなお話です。いえいえ、身近にもよく起きている現実ですが、目を背けているだけかも。
外国のビジネスの常識は、日本と違いますね。香港、中国、それぞれ彼らのルールで行うわけで、三枚も四枚もうわてなはずです。逆に、海外で仕事をし続けている日本人ビジネスマンは、日本に戻るとギャップがあるとか無いとか。
それにしても、食べることが精神的に落ち着くというのはよくわかります。食べる=現実を受け入れる、ということだ、と何かで読みました。拒食症というのは、目の前の現実が受け入れ難い時に、自己防衛として生じるのだとか。ほーほさん、ちゃんと精神的な自己防衛しているってことだから、大丈夫ですよ!
| なおちゃん | 2010/01/28 6:28 AM |
おお、た、大変ですね…。年末会えなかったけれど、メールを見て「本当に大変そうだなぁ」と思ってました。ともあれ、何かできるわけでもなく、せいぜいがこのブログをときどきチェックして、様子を見ていた次第。香港のブローカーにたぶらかされるとは、恐ろしい話です…。
音楽で心を和ませて、なんて話はさすがにできないけど、せめてローカロリーのものを食べてくださいね。
東京に出てくるチャンスがあったら声をかけてください。
| ohtaka | 2010/01/28 1:45 PM |
予想外に多くのコメントをいただいて、びっくりするやら驚くやら・・・(おいおい)

> OKARさま
ご心配いただきましてありがとうございます。実はこの「お仕事篇」に続き「ワタクシ篇」も計画されておりまして、そちらの方では音楽活動についても触れる予定です。やはり音楽とそれにまつわる人間関係に癒されてましたからね〜。

> なおちゃんさま
さすが国際派、コメントが鋭い。そうですね、ルールの背景にある価値観というか、これはやっていい・これはやっちゃいかんという区分からして違うみたいです。
そうかぁ、食べる=現実を受け入れる、ね。そうかも知れない。ステージで上がらないおまじないで、手のひらに「人」と書いてそれを食べちゃう、ってのもあるし。ちなみに私は根がいいかげんな上に食うことが好きなので、拒食症にはならずに済みそうです、たぶん。(実は現実を受け入れられないから食に逃避してる、とか <いやー、そんな食い物がまずくなるようなことはしないな、やっぱり)

> ohtakaさま
ううむ、やはり仕事にしちゃうと音楽では心和みませんかねぇ。私もオケの下振りやってるとけっこうケワシイ気分になったりします・・・おっといかんいかん、「音」を「楽」しまないと。パンジャでも和み特集とか、どうすか?
いずれまた一杯やりましょう・・・ローカロリーでね。
| ほーほ | 2010/01/28 10:03 PM |
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