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食に関する本 その9:「ドイツ料理万歳!」(川口マーン恵美)

ドイツ料理万歳! 突然始まっていつの間にか途絶えてしまった「食に関する本」カテゴリーですが、どっこいまだ終わっちゃいない…というか、また本買っちゃって(笑)。

 子供のころから何となくドイツに親近感を覚えていたのに加えて、中学2年生で聞いたシューベルトの「冬の旅」でドイツ語の響きに魅せられてから、ますます私のドイツ好きに拍車がかかりました。もっともそれは「冬の旅」という作品そのものの魅力に加えて、そのとき聞いたフィッシャー=ディースカウの歌唱が、manche Stunde entfernt (何時間もかかるほど遠く隔たった:「冬の旅」第5曲「菩提樹」より) な東洋の片隅の日本国の中坊の心を揺さぶるくらいすごかったせいなのですが、しかしもしその後万葉集とか折口信夫に巡り合わなかったら、私はドイツ文学方面に進んでいたことでしょう。そんなわけで、評判になった林望の『イギリスはおいしい』は「うそだぁ」とか言って未だに読んでいないのに、こちらは書店で見かけるなり早速買ってしまいました。『ドイツ料理万歳!』(川口マーン恵美 2009 平凡社新書)です・・・あれ、平凡社新書の表紙って前は赤白だったけど変わったのね。

 ところで、ドイツ料理といっても思い浮かぶのはジャガイモ、ソーセージ、骨付き肉を切り分けるアイスバインにザウアークラウトくらいで、一度だけドイツを訪れたときの経験でも何かがすごくおいしかったという印象がないので、最初はあまり期待しないでこの本を手に取ったのですが、まず冒頭の「まえがき」がとてもおもしろい。

 ここで著者はドイツ料理というカテゴリーが発展しなかった原因を大きく三つ(1. 気候や土地の条件から来る食材の貧困、2. もともと狩猟民族で農耕の開始が遅かった、3. 中世以降もイタリアとフランスの文化的優位に甘んじて独自の宮廷料理を発展させる機会を失った)挙げた後、ドイツ人の「料理観」とでもいうべきものについて次のように書きます。「そんな事情が重なりあったためだろうか、今でもドイツ人というのは、「食」に対する情熱のかなり欠如した人々のようだ。(中略)結局、ドイツ人は空腹が満たされるなら、内容にはそれほど拘(こだわ)らない。また、元々頑固で進取の気性の乏しい人々なので、目先の変わったものを食べてみようとも思わない。昨日食べていたものを、今日も、そして、明日も変わらず食べていけるなら、たいていのドイツ人は満足なのだ。」(pp.14-15)
 しかしそうは言いながらも、著者はこの「まえがき」を次のように締めくくってくれています。
「ドイツは元々一つの国だったわけではなく、たくさんの邦国が集まっていた地域にすぎない。したがって、今でも地方ごとの文化の違いが顕著だ。つまり、今でも各地方に、地元で採れる食材を利用した、特徴ある郷土料理が数多く存在するということだ。もちろん、それらの郷土料理は、多くの場合、家庭風惣菜の域を出ないため、高級料理の範疇には入れにくい。それでも、高級料理に引けを取らない、魅力あるお料理であることには変わりない。
 二十五年のドイツ生活で、いろいろなお料理に巡り合った。これから、それらのいくつかを紹介していきたいと思う。それと同時に、ドイツ人の性格や、ドイツの美しい四季、そして、ドイツの何気ない日常生活の様子も垣間見てもらうことができるなら、私にとってこれほど幸せなことはない。」(pp.16-17)

 続く各章も著者の25年にわたるドイツでの生活の実見・実体験から書かれていて、その中には、たとえばドイツ人は料理をシェアしない、つまり中華料理みたいに一皿をみんなで取り分けたり「これ一口上げるからそっち一口ちょうだい」みたいなことは絶対しないとか、アイスバインはベルリンの観光客相手のレストランか大衆食堂みたいなところ以外ではほとんど見かけないしドイツ人にそれほど好まれてもいないとか、「まえがき」にもあるとおり料理に関する州ごと・地方ごとの違いがとても大きいとか、ときどき我々の常識や思い込みを揺さぶる新鮮な驚きがあります。
 しかしそうした不思議発見みたいなことが主眼なのでは勿論なく、全篇を通してドイツのいろいろな料理(酒類含む)とそれらに関わるドイツ人の暮らしぶりやものの感じ方などが、冷徹でありながらおおらかな肯定を伴ったまなざしで描かれていて、読んでいて楽しく心地よい。とりわけドイツ人(シュヴァーベン人)の代表みたいな役柄でときどき登場する著者の友人エレンが実にいい味を出しているし、著者自身の感じたところをざっくばらんに述べる箇所も随所に見られ、日本とドイツの文化や生活感覚の違いが具体的に見えてくるのが大変おもしろかった。
 欲を言えば、カタカナで紹介されているドイツ語の料理名や名詞(「ベーゼン」とか)に原語("Besen"とか)がついているとよかったし、蒸留酒と醸造酒の区別を誤っているなど小さな誤謬もありますが、おいしそうな料理とドイツ人とその生活に関する興味深いエピソードがいっぱいで、ドイツ好きで料理好きなら何度も読み返したくなる本です。

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