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食に関する本 その7:「変わる家庭 変わる食卓―真実に破壊されるマーケティング常識」(岩村暢子)

変わる家族 変わる食卓世の中には読みたくないけど読まなきゃならない本というのもありまして(汗)、私にとっては今回紹介する『変わる家族 変わる食卓―真実に破壊されるマーケティング常識』(岩村暢子 2003 勁草書房)がまさにそれ。食文化じゃなくて食物そのものだけに興味があるのならこんな本読まなくていいわけだけど、やはり私は「人はなぜそれをそうやって食べるのか」に興味があるし、確定した歴史的事実だけを問題にするのなら平和だけれども、今を生きる役に立たない歴史なんて意味がない、というか、歴史を今を生きるための役に立てられないのはただのアナクロ、怠け者の感傷趣味だと思っているから、やっぱり現代の食生活の一断面を示すものとして本書を読まないわけにはいきません。

 私が本書を読みたくなかったのには、わけがあります。まず本書のサブタイトル―真実に破壊されるマーケティング常識―に注目していただきたい。本書はもともと食生活そのものを主題にした本ではなく、広告・企画制作会社の株式会社アサツー ディ・ケイが1998年から5年間にわたって実施した「食DRIVE」という一般家庭の食卓調査の結果をまとめたもので、本来はマーケティングの本なのです。ではなぜそうした調査を行い、なぜこの形、このタイミングで出版したか。それについては、三井物産戦略研究所の機関誌「The World Compass」2003年10月号の岩村氏へのインタビュー記事「食卓が語る日本の現在」がとてもわかりやすいので、目を通されることをお勧めしたいのですが、要するに同調査スタートのきっかけは「1960年生まれを境に従来のマーケティング手法やその結果が通用しなくなっている」という認識にあったのですね。ところが「1960年生まれ」って、実はモロに私なんだよねぇ(正確には1961年1月生まれだが、同級生は1960年生まれ)…自分が槍玉に上がってる本って、そりゃあやっぱり読みたくねぇべ(苦笑)。

 というわけで、本書の場合「食」は「1960年生まれの断層」を示すひとつの指標だったわけですが、そのデータ(定性調査なので数字ではなく個々のケースの記述)の内容が「断層」以前の方々にとってあまりにショッキングだったために、「そんなバカな!ケシカラン!」という感情的な戸惑いや反発はもちろん、そのようなデータの分析結果の有効性への疑問・批判もけっこうあったようです。内容の一部の要約はこちらにありますが、本書にはもっと生々しいデータが写真つきで続々紹介されてるぞ。

 本書を読んでみて、自分にとってショッキングな内容も少なからずあった反面、実際にそうはしてないけど感覚的には近いかもとか、まぁそれもわかるな、と感じられる点も実はけっこうありました。つまりそれは「食」だけがそれ単独でおかしいとか病んでるとか崩壊してるのではなくて、生活全般の価値観とか構造の中に織り込まれているものの一断面を取り出したらこうだった、ということなんですね。著者も「断層」以前の世代の方なのでさぞ気分が悪かっただろうと思いますが、淡々と事実を報告し、辛口の「指摘」はしても表立って「非難」はしていません。著者の立場はマーケティングですから、マーケティング対象を非難するなんて意味もなくあり得ないわけですし、やはり問題の根の深さと広がりを思えば、「食」という目に見えやすくわかりやすい指標の個々のケースにいちいち反応し非難しても始まらない、という思いがあったのではないでしょうか。

 ジャスト「断層」の一人としては、1960年生まれが突然それ以前と違ったふうに育って、だからオマエらから後がみんなオカシイんだよ(怒)ということではない、という点は強調しておきたいのです。マーケティング的には「1960年生まれから後がそれまでと違う」ということでよいのですが、そうなったのは当然「断層」以前の世代が形成してきた社会のあり方や価値観など、1960年生まれがその中で育った環境に因るところが大きいわけですから。1960年というと朝鮮戦争特需に始まる戦後の高度経済成長の中、池田内閣の所得倍増計画が策定された年なわけで、そういう時代に何が幸せと信じられ求められたのか、親や社会はどのように生きどのように子どもを育てたのか、その結果が「断層」を作った。

 これまでは毎回関連書籍を紹介してきましたが、今回は適当な関連書籍が、少なくとも食関連では思い浮かばないので、パスします。

| 食に関する本 | 21:38 | comments(2) | trackbacks(0) | pookmark |
コメント
これは、大変な本が出ましたね・・・

インタビュー記事、内容要約とも拝見しましたが、ものすっごく同感です。自分ちがまさにそれです。

すみません、こんな食生活間違ってる、と思いつつ、時間がなくて、とか、めんどうで。
コンビニ、大変助かってます…。

作るにしても、たとえば土曜のお昼。
こどもらのメニューはご希望をきいて。
同じスパゲティでも、ひとりずつ好みが違う。
長男はコンソメ味のシーフード、次男はケチャップ味でないとダメ。娘は辛いもの好きでペペロンチーノ(粉末;;)。
家の食事がファミレス化?

どっかで切り替えなくちゃね。まだ、間に合ううちに…

ああしかし、味噌汁作っても飲まないこどもたち!!
| OKAR | 2009/07/15 10:10 AM |
おお〜OKARさん、セキララなコメントどうもです。

しかし三人三様のスパゲティができちゃうところが、それはそれですごいすね(^^;)。ゆでスパゲティだけドン!と置いといて、あとはバイキング状態、ですかね…

> 家の食事がファミレス化?
家族の一人ひとりが違うものを食べられるってのは、昔はデパートの大食堂がそれだったわけですが、あれは特別な日の特別なできごとで、夏休みなら絵日記に書いちゃう!っていうくらいの事件でした。昔は特別だったこと・ものを特別じゃなくすることが幸せだ(岩波文庫の一番後ろの「読書子に寄す」だっけか、あんな感じ?)と信じて、ジャスト断層の私から上の世代の方たちはがんばってきたわけですが…うーん、どうしましょう。。。

今回はけっこう重たい内容の本だったんで、次は今回の問題にもちょっとかすりながら、ちょっと軽くする予定です。文庫本だし、ってそういう意味じゃなくて。乞うご期待(???)
| ほーほ | 2009/07/15 1:00 PM |
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