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食に関する本 その4:「食品の研究 アメリカのスーパーマーケット」(ヴィンス・ステートン)
 食品の研究
 以前にも書きましたが、私は食品スーパーが大好き。そこで今回は食品スーパーとその商品に関する肩のこらない本をご紹介、といっても、ここに出てくるのはアメリカのスーパーです。でもアメリカはスーパーを含むチェーンストアの本場だし、アメリカのスーパーは日本のスーパーとは違ったエキサイティングな面白さがあって、のぞいてみると楽しいよ。

 『食品の研究―アメリカのスーパーマーケット』(ヴィンス・ステートン著 北濃秋子(きたの・あきこ)訳 1995 晶文社)の内容は、「訳者あとがき」に次のように紹介されています。「ケンタッキー州に住む平均的中流家庭――夫婦と子ども二人、乗用車二台、一週間の食料品購入費約100ドル――のあるじ、ヴィンス・ステートンがある金曜日の夕方、妻と一緒にスーパーに出かけ、青果売り場から精肉売り場まで店内の通路をめぐり歩きながらこのショッピングの一部始終を語る、というのが本書の構成である。」目次を見ますと、まず最初に祖母の代から現在(原書の出版は1993年)までアメリカの食料品店とその商品がどう変わってきたかの概観があり(「序――食物と私」)、次にスーパーマーケットという業態の誕生から現在までを簡単に振り返り(「スーパーマーケットの誕生」)、ステートン家を例にとりながら平均的なアメリカ人の食品購入パターンやスーパーマーケットの店内のようすが描かれ(「ショッピングへ出発」)、そしていよいよ「第1通路 青果」から「後部通路 精肉」まで順に通路を回りながらのショッピング、最後はもちろん「レジ」で終わります。
 ショッピングは通路ごとに、まずその通路で扱われている商品全般に関する説明があり、続いて著者(の奥様)がショッピングカートに入れた各アイテム、たとえば「レッド・デリシャス・リンゴ、5ポンド袋―3.98ドル」に関する話題が紹介されるのですが、本書の魅力はなんといってもスーパーマーケットとその商品に関する圧倒的な量の事実の羅列。品質や添加物、加工方法など食品そのものに関することはもちろん、生産から流通、販売、消費に至るまで、実に幅広く数多くの情報が提供されます。たとえば「レッド・デリシャス・リンゴ、5ポンド袋―3.98ドル」については24字×94行、2000字以上を割いて、レッド・デリシャスという品種の特徴、アメリカの教師たちが好むリンゴのランキング、レッド・デリシャスの生産と流通、販売等に関するあれこれが書かれていて、私たちを即席のレッド・デリシャス通(つう)にしてくれるのです。
 構成がそんなふうですから、スーパーマーケットでショッピングするように、読みたい項目だけを選んでどこから読み始めてもどこで読み終えても全然構わないのですが、スーパーに行くとつい目移りして最初は買うつもりではなかった品物まで買ってしまうように、読み始めたらつい読みふけってしまうかも知れないので要注意!
 著者が「序――食物と私」で「これは健康食品ガイドではない。これは私たちが何を食べるべきかを論じる本ではない。私たちが実際に食べているものについての本である。」と言い、また訳者も「訳者あとがき」でやや詳細に論じているとおり、彼はたとえば食品添加物の使用を詳細に報告したり、またトマトが昔のトマトとどんなに違うかを丁寧に説明したりしますが、それでも彼はそれらについて怒りをあらわにしたり頭から批判したりはせず、結局は淡々とそれらを買うのですね。そこが巷にあふれる「××てはいけない」式の告発本と違うところで、考えさせられました。私自身もいくつかの環境関連団体の会員だったり、スローフード協会の会員(今は一時中断中)だったりするので、そうした視点からの行動とその成果を期待する気持ちがある反面、今の食品やその販売のあり方は良くも悪くも消費者の要求と選択の結果であって、現実的に消費者に受け入れられているという事実も否定できないわけです。そうした性格の問題だからこそ、一方の視点から声高に利害を主張するのではない、こういう淡々とした姿勢もアリなのでしょうね。
 なお原書は1993年の出版なので、本書の内容がそのまま現在のアメリカの実態であるとはいえませんが、逆にこの15年間の変化とその背景を理解する材料を(普遍的・網羅的ではないにしても)提供してくれますし、個々のトピックの目のつけどころも「なるほど」と感心するところが多いです。おもしろいよ!

 ただこの本、平明にこなれた訳文で読みやすいのですが、残念なことに翻訳の精度がいまいちで、私の印象では細かい内容にはあまり信頼が置けません(詳細は別項に譲ります)。楽しんで読むなら訳本で全然かまいませんが、背景や事実関係にスルドくツッコんで読みたい方には原書の方をお勧めします。口語的な破格の文もありますが、決して難しい英語ではないので。

食品の研究原書<原書は "CAN YOU TRUST A TOMATO IN JANUARY? The Hidden Life of Groceries and Other Secrets of the Supermarket Revealed at Last" (Vince Staten 1993) 私が持っているペーパーバック版は1994年刊の Simon & Schuster N.Y. (Touchstone Book) です。英語に慣れている方ならあまり苦労せず読めます。訳書はハードカバーなので、持ち歩いて読むにもこちらの方がよい。>

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