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足立区梅田の無理心中事件に思う
 11日の夕方に発生したと報道された東京都足立区梅田の一家4人死傷の無理心中事件、いつも新しいものを追いかけて止まないマスコミ的にはこの事件はおおむね片付いてしまったかのようで、今日(12日)午後7時のNHKニュースではこの事件に関する報道はありませんでしたが、私にはこの事件はこたえました。というのもこの事件があった足立区梅田というところは私の母の実家のすぐ隣町にして私が卒業した中学校のすぐ隣町でもあり、つまり私にとっては多少土地勘のある場所なのです。
 足立は母の実家でしたが、私の家族は父の仕事の関係で2〜3年おきに引越しを余儀なくされていて、ここに住んだことはありません。私がこの近くの中学校を卒業したのは、家族から離れて親戚に預けられたからでした。小学校2つ、中学校は3つ経験し、どこへ行っても「転校生」でよそ者だった私の、ちょっと冷めた目から見ると、この辺は中学校同士の喧嘩なんかもあってやや荒んだ感じもありましたが、昔から住んでいるご近所同士のお付き合いはべたべたせずにつかず離れず適度にあったので、報道されたような追い込まれた果てのカタストロフィックな事件が起きるとはちょっと信じられませんでした。
 私が私にとって3つめの、足立区の中学校を卒業したのは、もう30年以上前のこと。Google Mapで見てみるとその頃と今とでは状況が変わり、密集した民家の中のあちこちにマンションやアパートが建ち、コンビニはもちろんチェーン店のファミレスや家電量販店も進出してきています。モザイク状の集合住宅の建設と外からの人の流入に伴って昔ながらのご近所づきあいは希薄になり、チェーン店が持ち込んだ大規模な合理化による低価格のため個人商店の存続も難しくなり、ご町内といえども昔のようにお互いを思いやる余裕、思いやりを形に表す余裕(例えばちょっとしたお裾分けとか)もなくなってきているのではないでしょうか。
 個人の自営業や生業店の経営は脅かされ、勤め人はリストラの影におびえながら何年も上がらない給料でますます過重になる一方の仕事に耐え、頼みの年金は行方知れず、政府・自治体の援助も削られる一方で期待できず、機会平等・再チャレンジ支援なんてどこのどなたの戯言か、こんな露骨な優勝劣敗のご時勢では、一度でも躓いたらもう落ちるところまで落ちるばかりで二度と人並みの生活はできない…今の私たちの生活の通奏低音になっているとも言うべきそんな恐怖と絶望が、この事件の背景にあるように思います。

 この事件に関するブログをいくつか見てみると、「父親が死ぬのは勝手だ/仕方がない。しかし家族を無理やり巻き添えにするのは理解できない/間違っている/許せない」という論調が比較的多いようです。確かに家族を無理やり巻き添えにするのはいけないと私も思いますし、この無理心中事件を起こした父親も、正常な判断ができる状況であればきっとそのように考えたことでしょう。しかしこの父親は、そうした当然の判断すらつかなかったのです。自分が至らないために自分自身が不自由するのは苦にならなくとも、家族あるいは債権者や親類縁者、友人知人らに迷惑をかけているという思いにずっとずっと苛まれ、しかも将来状況が好転する見込みも全く立たないとしたら、人は絶望のあまり判断を誤ることがあるのではないでしょうか。それは常識的な判断力やモラルだけではどうにもならないものなのかも知れません。

 昔トルストイの『戦争と平和』を読み始めて途中で挫折したことがありますが、かろうじて読んだ比較的最初の方に、主人公が戦争中に怪我をしたか何かで倒れ、気がつくと青空に白い雲がぽっかりと浮かんでいる。それを見て、こんなところで戦争をしている自分たちと全然関係のない境遇があると気づく場面があったように覚えています。生活が破綻する恐怖と絶望を完全に払いのけることができないとしても、せめてその手をくぐり抜け、かわし、何とか耐えていくために、自分が絶体絶命の危機に巻き込まれているその時にも、実はどこかにそんな危機とは全く関係のない世界がいつも必ずあるということに気づく力を養っておきたいと思います。ああ、ひょっとすると宗教ってそんなものなのかも知れませんね(でも宗教は宗教自身のために人を殺すこともある…)。

 この事件で亡くなった方々のご冥福と、残った方々の回復と再起を、心からお祈り申し上げます。
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