仕事が終わって建物の外階段を降りていると、下から登ってくる中年の女性社員の一団から「◯◯さん、おっこンないでヨー」と声をかけられた。「だいじょうぶだヨー」と答えてすれ違い、駐車場まで歩きながら考えた。
「おっこンないで」とは勿論「(階段を踏み外して)落ちないで」という意味に違いない。そして「おっこンないで」のンはおそらく撥音便(たとえば「積む」の連用形「積みて」が「積ンで」、「読む」の連用形「読みて」が「読ンで」になる等の発音の変化をいう)であろう。もしそうなら元の動詞は何だろう。それはおそらく「おっこる」という形なのではなかろうかと考えた。
さらにその「おっこる」の「おっ」の部分は関東方言で多用される「お+促音の接頭語」(たとえば「オッぱじめる(始める)」「オッころぶ(転ぶ)「オッぺしょる(へし折る)」等の「オッ」)ではないかと考えた。もしそうなら接頭語が付く前の本来の動詞は何だろうか。単純に「おっ」を除けば「こる」が残るが、「こる」という語が「落ちる」という意味を持つのだろうか。どうも違和感がある。
そこで思い出した。「落ちる」の関東方言で「おっこちる」という語がある。この語はふつう「落っこちる」と書いて、つまり最初の「お」が「落ちる」の「お」だと思われているのだが、あれも実は「落ちる」に関東方言の「お+促音の接頭語」が付いたものなのではないだろうか。
ただし、もしそうであれば「おっ落ちる」という形になるが、「おっお」という音の連なりは発音しにくいので、発音しやすくするため仮に k の子音をはさんで「おっ・k・落ちる → おっこちる」となったものではないだろうか(これを「k仮説)と呼ぶことにする)。
そこでこの「k仮説」を先ほどの「おっこる」に適用してみると、「お+促音の接頭語+k」を取り除いた形は「おる」になる・・・なんだ、「おる」なら「下りる・降りる」の古語「下る・降る」そのものじゃないか!つまり「おる」に「お+促音+k」の接頭語を加えることで、その内容の「下りる」に勢いと強さが加わり、結果として「落ちる」という意味を表すことになったと考えられるのだ。
帰宅後に「落ちる」という意味の茨城方言「おっこる」が実在することを確認した(たとえばこちらの該当箇所)。
あとは私の「k仮説」が正しいことが検証されれば、茨城方言「おっこる」が、実は由緒正しい古語「おる」にまっすぐつながる語ということになるわけだ。
「何?「おっこる」?そんなの聞いたこともないね。どーせイバラキの田舎の方言でしょ?へへ」なんて思ってるそこいらここいらのアナタたち!どうせ皆、茨城の事バカにしてんだっぺよ。おめえら、いつまでも調子に乗ってんじゃねーかんな!((C) 赤プル)(笑)