ブラームスの交響曲第1番について24年前に考えていたこと

2019年に始まったコロナ禍もようやく一段落したかのように見える昨今、私の所属する土浦交響楽団でも来月の12日に定期演奏会を行うことになりました。メインの曲目はブラームスの交響曲第1番です。私はアマチュアオーケストラを40年以上もやっていて、しかもあちこちのオケにトラ(エキストラ、お手伝い)に行ったりもしていたので、ブラームスのこの曲も何回弾いたかわかりませんが、何回弾いてもなかなかちゃんと弾けなくて、でも今さら言うまでもなく、いい曲です。

ところで、土浦交響楽団のホームページの団員専用のコーナーに、今から24年前の若き日の私(と言っても30代半ばですが)が書いた、この曲に関するエッセイが載っています。おそらく1996年5月に行われた土浦交響楽団第33回定期演奏会に向けて書いたものを、その後に若干改訂してこちらに載せたものと思います。今となっては気恥ずかしいものですが、この機会に虫干しを兼ねてこちらに転載しようと思います。内容は当時のままでその後一切手を加えていないので、現在では誤りと思われる内容もあるかも知れませんが、興味のある方はご笑覧いただければと思います。

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ベートーヴェン:劇音楽「エグモント」序曲

ベートーヴェンの「エグモント」序曲は、学生時代にブルーノ・ワルター指揮の演奏で親しみ、その後も折に触れて聞いてきましたが、あまりスコアを見たことがありませんでした。このたびこの曲の下振りをするに当たって改めて曲を見直した際のメモです。

 

構成
全体は簡潔なソナタ形式

序奏:1-24小節 Sostenuto ma non troppo 3/2拍子 ヘ短調

大きく2つの部分に分かれる
A:1-12小節 前半Aaと後半Abに分かれる

Aa:1-7小節 フェルマータに続いて出る動機は主部の第2主題、それに続く動機は主部の第1主題にそれぞれ発展する。序奏をあまり遅いテンポで演奏すると、2-3小節の動機と第2主題の動機2aとの関連がわかりづらくなる。

 

譜例(左)は曲の冒頭1-3小節で赤枠内が2-3小節の動機。(右)は82-83小節の第2主題の動機2a。このように譜面を並べてみると赤枠内の動機どうしの関連は一目瞭然だが、あまりテンポが違うと音だけ聞いてこの関連に気づくことは容易ではない。
 

Ab:8-12小節 Aaの確保とBを導入するための転調(ヘ短調→変ニ長調)。Aaのシングルfに対してffとなりフェルマータが減衰しないので、Aaより苛烈な音楽となる。

B:13-24小節 主部の第1主題に発展する動機を繰り返しながら主調のヘ短調を確立する。

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「私のいい人」って誰? 〜Passereau の "Il est bel et bon"〜

リコーダーのサークルで今練習中の曲の中に、16世紀フランスの作曲家 Pierre Passereau ピエール・パセローの "Il est bel et bon?" という曲があります。原曲は歌詞のついたシャンソンで、これをリコーダー四重奏に編曲した譜面の邦題は「私のいい人」となっています。原題を直訳すると「彼はイケメンで性格がいい?」といった感じなので、「私のいい人」という邦題は、私のような昭和おやじには演歌の某曲を強力に連想させる点と、「イケメン」に当たる bel が訳されていない点を除けば、ほぼ問題なさそうです。それにしてもついつい「雨雨」とか言いたくなるんですよねぇ。

 

 ところで前述のとおりこの曲はもともと歌詞がついているのですが、リコーダー用の譜面には歌詞はついていません。これまでは曲をさらうのでいっぱいいっぱいで全く気にしてませんでしたが、やや余裕が出てきたので「これってそもそもどんな歌なんだろう」と思い、ネットで検索してみると、小杉元雄氏の仏和対訳がヒットしました。この対訳から、ここには和訳だけを引用します。

 

 

うちの亭主はお人好し

 

うちの亭主は男前でお人好し
同じ地方の二人の女が話している
御亭主はいい人なの?
うちの人は怒ったりぶったりしないのよ
家の仕事はなんでもするし
にわとりにえさもやる
おかげで私は楽しいことができるわけ
にわとりの鳴き声がまたおかしいのよ
コケット、コケット(浮気女)だって
何の意味かしら?

 

 

 「何の意味かしら?」って、奥さ〜ん(笑)楽しいことができるんでしょ?(笑)しかも日本には瓜子姫のお話のように「鳥が鳴いて悪事をバラす」という伝承がありますが、彼の国にも同様な心意があるらしい・・・まあそれはおいといて、この歌詞の内容から原題の il(彼)は話者の夫をさすのであり、原題 Il est bel et bon は「うちの亭主は男前でお人好し」という意味なのであることがわかりました。

 

 しかしそうだとすると、例の譜面の邦題「私のいい人」というのはちょっとどうなんだろうか?と思えてきました。「雨雨」じゃないけど(あ、ほんとの曲名は「雨の慕情」です、念のため ^^;)「私のいい人」という時はふつうは自分の夫「じゃない」人をさすのではないかと思うのですよ。「私のいい人」というと、少なくとも私のような昭和おやじは「そこはかとなくいけない・どことなくあぶない」感じを抱いてしまうのでありますね・・・まあ確かにこれはいけないあぶない歌らしいのではあるけれど・・・と考えているうちに、私の妄想スイッチが入ってヒラメキました。ひょっとするとこの「私のいい人」という邦題は「誤読」によって偶然生まれたのではないだろうか!?

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ブラームスの交響曲第3番 〜闘争と和解の交響曲〜

 今、土浦交響楽団でブラームスの交響曲第3番に取り組んでいます。最近この交響曲のテーマを「闘争と和解」と妄想(あぁ懲りないヤツ!)しましたので、その場合の全体の構成を記しておきます。

 

【第1楽章】

第1楽章は全曲の序章である。この楽章はブラームスが座右銘としていたという Frei aber Froh(自由に、しかも朗らかに)を表すモットー主題 F-A/As-F によって、ある人物像―ここではこの曲を初演した指揮者のハンス・リヒターに倣って「英雄」と呼ぼう―を提示する。第一楽章はこの「英雄」が人生の荒波を乗り切って現在に至ったさまを描写する。極めてドラマティックであり充実した楽章だが、全曲の中では序章にすぎない。

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ブランデンブルク選帝侯とブランデンブルク辺境伯

 ここ一月ほど、ずっとバッハのブランデンブルク協奏曲のいろいろな演奏、中でも英国の音楽学者サーストン・ダート(1921〜1971)が関係した録音を中心に聞いていました。
 このダートのブランデンブルク協奏曲についてはまた別の記事で触れることにして、今回は別のネタで書きます。

 

 ヨハン・セバスティアン・バッハの全作品とそれぞれの作品に関する情報を網羅した「バッハ作品総目録」(Bach-Werke-Verzeichnis : BWV)はヴォルフガング・シュミーダーが編纂したもので、1950年に初版が刊行され、現在では1990年刊行の第2版が広く用いられています。しかしこれは当然のことながらドイツ語ですし、1990年以降の研究成果は反映されていません。

 そこで私は1997年に白水社の「バッハ叢書」(全10巻)の別巻2として刊行された『バッハ作品総目録』(角倉一朗・著)を愛用しております。箱に付けられた帯には「シュミーダーの作品目録(BWV)第二版を完全に凌駕した決定版総目録。」の大文字が眩しい!(写真)

 ところがこの「決定版総目録」の、よりにもよってバッハの管弦楽作品の代表作である「ブランデンブルク協奏曲」の解説に問題があることを発見してしまいました。しかも調べてみると、この問題なかなか奥が深い。今回は1871年のプロイセンによるドイツ統一のはるか前、神聖ローマ帝国の支配下にあって多くの領邦国家が分立し、30年戦争(1618−1648)による疲弊・荒廃から次第に立ち直りつつあったドイツの北東部、ブランデンブルク地方の歴史の片隅を訪ねます。ちょっとややこしい話にもなりますが、よろしかったらおつきあいください。

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シューマンの交響曲第2番聴き比べ 〜 シューマン2番 at a glance 〜

 ただ今自分の所属オケでシューマンの交響曲第2番を練習中。個人的にはこれでシューマンの交響曲はコンプリート。2番はあまり演奏される機会が多くない曲なので、生きているうちにコンプできてラッキーです。そこでこの機会に NAXOS Music Library (NML)に収められているシューマン2番の録音をいっちょ片っ端から聞いてみようかなどという気を起こし、2016年9月17日から10月27日にかけて不定期に聞いた印象をまとめました。名づけて「シューマン2番 at a glance」。トライした期間が短く中途半端に終わっておりますが、ほんの出来心からの試みゆえご容赦ください。
 ちなみに私が使っている NML は IMSLP のメンバーが使える米国版で、日本版の NML とは一部収録内容が異なりますが、そこはご了承ください。なお内容はあくまでも個人の感想です。

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| オーケストラ活動と音楽のこと | 23:59 | comments(0) | - | pookmark |
メグデンって誰?

 本ブログではこれまで時々クラシック音楽界にはびこる「なんだかなあ」についてブツブツ言ってきましたが(以前の分はこちらの文末にまとめて紹介してます)、また新しい「なんだかなあ」を発見してしまいました。

 

 ここ数日ムソルグスキーの交響詩「はげ山の一夜」の曲目紹介を書くために資料に当たっていました。手元にある『ON BOOKS SPECIAL 5 名曲ガイドシリーズ 管弦楽曲(下)ベルク→ワルトトイフェル』(音楽之友社 1984;以下「音友資料」という)と『Kleine Partitur No.23 交響詩曲「禿山の一夜」』(解説 溝部国光 日本楽譜出版社;以下「日譜資料」という)、"The Musician's Guide To Symphonic Music - Essays from the Eulenburg Scores" (Ed. Corey Field, Schott Music Corporation 1997;以下「オイレンブルク資料」という)だけでなく、Wikipedia の日本語版英語版等ネットの情報も参考にしました。

 

 これらの資料の多くがこの曲の作曲のきっかけとして「妖婆」という戯曲への付曲を挙げているのですが、問題はこの「妖婆」の作者の名前。音友資料、日譜資料、Wikipedia 日本語版など日本語の資料ではいずれも「メグデン」となっていて、日譜資料は「メグデン(Megden)」と綴りまで出しています。ところがオイレンブルク資料や Wikipedia 英語版など英語の資料ではいずれも Mengden となっていて、発音は「メングデン」ないし「メンデン」でしょうか。音も綴りも日本語の資料と一致しません。何じゃこりゃぁー!?

 

<オイレンブルク資料。下線のとおり Mengden と書かれています。>
 

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アンダンテ・フェスティーヴォ(シベリウス)

 先日、所属オケの団内演奏会でシベリウスの「アンダンテ・フェスティーヴォ」(弦楽合奏版 JS 34b)を指揮する機会があり、一夜漬けとは言わず二夜漬けくらいの (^^;; にわか勉強をしました。それでもありがたいことに何がしか得られたものはあったので、自分用の備忘録的に書き留めておきます。

 

作品の成立
 とりあえず Wikipedia で調べたところによりますと、「アンダンテ・フェスティーヴォ」の弦楽四重奏版(JS 34a)はシベリウス57歳の1922年に作曲され、1930年にコントラバスを含む弦楽合奏(ティンパニを任意で加えることができる)用に編曲されたとのこと。弦楽四重奏版と弦楽合奏版は旋律・和声・構成等基本的に同一の音楽です。
 なお1924年に作曲されたピアノのための「5つの印象的小品」Op.103 の第1曲「村の教会」に「アンダンテ・フェスティーヴォ」の旋律が引用されています(後述)。

 

楽曲の構成
 全曲は81小節から成り、テンポの指示はありませんが曲名から Andante で演奏されることは明らかで、私が使ったスコアには演奏時間5分と表示されています。ト長調、2/2拍子で書かれており、曲中にテンポ変更の指示はなく、転調も途中4小節間だけ臨時記号で変ロ長調−イ長調に転調する以外はト長調−ホ短調という平行調間のそれに限られているのでシャープやフラットの増減もありません。全パートが同時にほぼ同じリズムで動くことが多く、和声的にもあまり複雑な和声や意表をついた進行は用いられていません。それらのことが相俟って、曲は全体に聖歌や賛美歌のような簡潔さと慎ましさをたたえており、フェスティーヴォ(祝祭的)という言葉から連想される華やかで浮き立つような感じは全くありません。前述のとおり「村の教会」というタイトルを持つピアノ曲に旋律が引用されていることから、むしろ宗教的なものが込められていると考えてよいのではないでしょうか。

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| オーケストラ活動と音楽のこと | 09:17 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
バッハのフルート・ソナタ ホ短調 BWV1034 第一楽章15小節目の改変
あれ、音が違う!?
 特にこれという原因も思い当たりませんが、ある日突然といった感じでバッハのホ短調のフルート・ソナタ BWV1034 が大好きになってしまいました。有田正広さんがトラヴェルソ(バロック時代のフルート)で吹いたCDを持っていますが、他にもいろんな演奏を聞いてみようと Naxos Music Library で古今のさまざまな録音を聞いているうちに、録音によってある音が違っていることに気づきました。
 その音とは第一楽章の15小節目のフルートの、十六分音符が16個あるうちの最初から7番目の音(以下この音符を Fl:15/n.7(フルートの15小節の7番目の音符( note )の意)と書くことにします)で、私が持っている新バッハ全集(ハンス=ペーター・シュミッツ Hans-Peter Schmitz 校訂 1963年)準拠の全音ベーレンライター原典版シリースの譜面ではこの音は a(ラ)なのですが、この音を半音高い ais(ラ#)で吹いている録音があるのです。たった半音の違いですが、この違いはいろいろな問題を提供していますので、以下検討していきます。
<譜例は新バッハ全集の15小節目と16小節目の前半。赤丸で囲った音はこの譜例では a(ラ)ですが、この音が半音高い ais(ラ#)になっていることがある。>

 私が最初にこの違いに気づいたのは、ジュリアス・ベイカーが吹いた1947年録音の演奏を聞いたときでした。さらに他の演奏を聞いてみると、アラン・マリオン、ペーター=ルーカス・グラーフ、ジャン=ピエール・ランパル、マクサンス・ラリュー、ヨハネス・ワルター、ポーラ・ロビソンなど、いずれも少年時代の私がまぶしく見上げた錚々たるビッグネームたちが、私の持っている新バッハ全集の音より半音高い ais(ラ#)で吹いていたのです。
 ところがおもしろいことに、一度は ais(ラ#)で吹いていたペーター=ルーカス・グラーフは、その後娘のピアノと入れた新しい録音では新バッハ全集の音 a(ラ)で吹いており、さらにランパルも後年の録音では a(ラ)で吹いています。つまり問題の音を ais(ラ#)で吹いていた奏者たちのうち、少なくともこの二人はその後 a(ラ)に乗り換えたというわけです。
 ais(ラ#)で吹いている演奏家の顔ぶれがいずれも比較的古い(失礼!)人であることと、グラーフおよびランパルの「乗り換え」から考えるに、どうもこの音は古い譜面の音らしい。そこでクラシック音楽の譜面のデータベース IMSLP でこの曲を探してみると、この推測は当たりでした。この ais(ラ#)は旧バッハ全集(パウル・ヴァルダーゼー Paul Graf Waldersee 校訂 1894年)の音だったのです。
<譜例は旧バッハ全集の15小節目と16小節目の前半。赤丸で囲った音は新バッハ全集の譜例では a(ラ)だったが、こちらでは臨時記号シャープがついて半音上がっている。>
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| オーケストラ活動と音楽のこと | 17:36 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
馬頭琴とモンゴルの音楽について
 先週のことですが、馬頭琴のコンサートを聞きに行きました。馬頭琴はモンゴルの弦楽器で、写真で見る通り四角い胴に棹がつき、その先端が馬の頭の形をしているので「馬頭琴」の名があります。全体の形は日本の三味線に似ていますが、三味線がばちで弦を弾(はじ)く撥弦(はつげん)楽器なのに対して、馬頭琴は弓で弦を弾(ひ)く擦弦(さつげん)楽器です。弦の数も三味線は3本なのに対して馬頭琴は2本です。全長は1mほどになり、胴体を膝の間にはさんで弓で弾く演奏姿勢から「草原のチェロ」と呼ばれます。
 この日の演奏会は土浦在住の作曲家兼バンドネオン奏者兼その他多くの楽器のマルチプレイヤーの啼鵬(ていほう)氏と、同じく土浦在住の弦楽器工房の幹弓(かんきゅう)氏と一緒に聞きました。幹弓氏は今回の演奏会に使われている楽器のメンテナンスをなさったそうで、楽器や弓の構造に関しての幹弓氏の実見談も参考にさせていただきながら、馬頭琴やモンゴル音楽についてわかったこと、考えたことをこちらに書いておきます。
<写真は馬頭琴コンサートのチラシ。ちなみにこのコンサートは2月19日に神奈川県の藤沢市勤労会館、3月17日に千葉県のアミュゼ柏(私が行ったのはコレ)、3月20日に東京都の瑞穂町郷土資料館、4月2日に埼玉県の北本市文化センターを巡回して開催されます / ました。最後の4月2日のコンサートなら今からでも間に合いますよ。>
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| オーケストラ活動と音楽のこと | 17:07 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |

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